日本企業を復活させるために
アメリカで開かれた国際家電見本市CES、日本企業の目玉は4Kテレビだ。さらなる高精細を追求したテレビということである。去年は3Dが話題だったが、今年は4Kのオンパレードだという。画面がより美しくなるに越したことはないのかもしれないが、実はここに日本企業の「発想の限界」が見えているような気がする。
かつてNHKはアナログ方式でハイビジョン放送を研究していた。さんざん苦労してようやく技術として花が開こうとしたとき、世界はデジタル技術に移行していった。すべてが無駄になったとは思わないが、高精細テレビで世界を主導しようという望みが潰えたことは事実である。
より「高精細に」というのはテレビ技術者にとって常にめざすべき目標の一つと想像する。しかし皮肉なことに、高精細になればなるほど消費者の欲求度は減っていく。アナログからデジタルに変わったときは、画面の美しさに感動したが、それほどの大きな質の「跳躍」が今は感じられないからだ。経済学で言うところの「収穫逓減の法則」である。
先を見通すことにかけては天才的だった故スティーブ・ジョブズは、「次はテレビ」と言っていた。そしてアップルがやる以上、インターネットとつないで、テレビをどう進化させるかがテーマだと思う。CESに参加していないアップルが「影の主役」と言われていたのはそこに理由がある。
ソニーはウォークマン(カセットヘッドフォンステレオ)で世界を席巻したことがある。日本のメーカーは音質を追求し、改良を重ねていった。やがてアップルがハードディスクを使った携帯型プレーヤーを開発する。音楽のファイル形式を極端に圧縮して(データを間引いて)大量の曲を持ち運べるようにしたのである。音質を追求してきた日本のメーカーにしてみれば鼻で笑うような代物である。しかしiPodはまたたく間に世界を席巻し、若者を中心にライフスタイルを変えた。そしてアップルは、世界最大の会社になった。
ここでの教訓は、イノベーションの方向は一方向だけではない、ということだ。しかも往々にしてヒット商品を生むのは、それまでのイノベーションとはまったくベクトルの違う発想が生むイノベーションだ。日本のメーカーが割に不得意とするところである。
もし日本企業があらゆる面、製品開発、組織運営、販売手法などでイノベーティブでありたいと思うなら、おそらくこれまでの意思決定システムを変えなければならないのだろうと思う。過去の経験に基づくトップの判断は、右肩上がりの時代には有効かもしれないが、構造的に右肩下がりの時代では時代後れかもしれないからだ。
ソニーのウォークマン開発チームも、当時、社内では冷たい目で見られていた。その発想が正しかったことは商品が売れて初めて証明された。そんなものだと思う。だから何はともあれまずは変えてみることから始まる。それが日本企業にとって(ひょっとすると日本という国にとっても)生き残る大事な道ではないだろうか。
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