いつ来る? 日本国債の危機

「日本の国債はいつまで今のような低金利で発行できるのだろうか」

金融の専門家と話す機会があるとき、必ずこの質問をしている。答え方はいろいろあるが、いちばん楽観的な答えでも「5年は保たないだろう」だった。ある財務省関係者の「2年かな」というのが、これまで聞いた中では最も悲観的な答えである。


ここで言う「保つ」というのは、日本国債が安定的に発行できる、すなわち常識的な金利で国が借金することができるということだ。「保たない」というのは、要するに市場で国債の相場が値下がりし、利回りが上がっていくような状態を指している。たとえばギリシャなどは10年債で30%という利回りになっている。つまり30%の金利を払うならば借金に応じてもいいというのが市場の姿勢ということだ。欧州のいわゆる「ソブリン・リスク」、国家債務危機では7%の利回りが危険水域の境界線とされ、イタリア国債の利回りが初めてその水準を超えたときは大騒ぎになった。

金利が上がればそれだけ利払いが増える。日本国債の発行残高は2011年3月末現在で920兆円。たとえば金利が1%上がるだけで利払いは年間9兆円以上も増える(すべての国債の金利がいっぺんに上がるわけではないので、これはあくまでも机上の計算である)。9兆円といえば、消費税率で約4%分。民主党政権が言っている2010年代半ばまでに5%引き上げて10%にしても、それがほとんど吹っ飛んでしまう。国債の相場がいつ下がるのか、それが大問題であることはこれで分かるだろう。

問題はそれだけではない。国債の相場が下がるということは、国債を保有している金融機関にとっては含み損が出るということ。その含み損の金額は半端ではない。たとえば地銀だけでも利回りが1%上昇するだけで、含み損は3兆円を超えるという。もしそういう事態になると二つのことが考えられる。

一つは、国債を保有する地銀などが競って国債を売りに回ることだ。そうなると国債相場は暴落だ。利回りは急上昇して、国は新しい国債を発行することができなくなるかもしれない。そんな金利を払い続けることは不可能であるからだ。もう一つは、銀行間の資金融通が止まるということだ。実際、2008年のリーマンショックでは、銀行間の短期資金の融通が止まって、中央銀行が懸命に巨額の資金を市場に流したにもかかわらず、いくつかの銀行の経営が行き詰まった。

ヨーロッパでもいま同じことが起きている。PIIGSと呼ばれる欧州の巨額債務国の国債を保有している銀行が、自身の債券を発行できなくなったり、金融市場から事実上締め出されたりしている。日本の国債相場が急落すれば、銀行間の取引が縮小することは間違いない。そうなると、一挙に経済が打撃を受ける。

銀行間の取引が縮小すると、銀行の取る行動は決まっている。資金調達が苦しくなれば、当然、新しい融資を抑え、返済の督促を行う。「貸し渋り」と「貸しはがし」である。とりわけ貿易は甚大な影響を受ける。銀行が支払いを保証しなければ、貿易を実行できなくなるからだ。こうして実体経済は細っていく。

このような事態になったら、打つ手はほとんど残っていない。緊急緊縮政策を発表し、とにかく歳出を減らすから、あまり高くない金利で国債を発行させて欲しいと訴えるしかない。中央銀行が国債を引き受けるという非常手段もないわけではない。実際、欧州ではECB(欧州中央銀行)がイタリアやスペインなどの国債を買い支えた。もっともこれは国債流通市場の話で、国債を直接的に引き受けたということではない。もっと無制限に買い入れたらどうかという提案に対し、ECBは中央銀行の信用に関わる問題であり、もし市場から信用されなくなったらその代償はあまりにも大きいと強硬に反対した。

追い込まれてから財政再建をしようとすると、当然、歳出カットは大幅にならざるをえない。たとえば日本の場合、2012年度予算での政策経費は71兆円であり、そのうち税収で賄えるのは40兆円強にすぎない。極端な話、税収で賄えるだけにすると言ったら30兆円の歳出カットが必要だ。国家公務員の人件費をたとえゼロにしても5兆円しか減らないことを考えれば、財政再建がいかに大変か、実感できるかもしれない。

政府は、財政をいかに時間をかけて再建するかという道筋を早く示さなければならないのだが、野田政権がやっていることは増税のロードマップを描くことだけだ。たとえば社会保障でも、民主党は負担が増える部分は先送りすることにしてしまった。税収増と歳出カットを一体的に進めないと、これだけ巨額の債務を抱えてしまったのだから、二進も三進も行かないはずなのに、それができない。

ひょっとすると政治家は、経済成長とかインフレとかに期待をかけているのかもしれない。たしかにインフレは国家の債務負担を軽くする。経済成長率が上がって税収が増えれば、借金する額を減らせるわけで、その分は負担が軽くなる。しかし残念ながら、生産年齢人口が減り、老齢化率が高くなる日本は、潜在成長力も小さくなっている。しかも需要に対して供給に余裕があるため、デフレからもなかなか脱却できない。「他力本願」でも、肝心の他力がなければ望みはかなわない。

残された時間は少ない。ギリシャにはドイツやフランスなどユーロ圏が手を貸してくれたが、日本にはそうしたパートナーはいないのである。

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コメント

藤田正美様
 ウェブサイト「ろんじんネット」http://ronzine.net/ です。
貴ブログを勝手ながらご紹介させていただいておりますのでご挨拶に参りました。
弊サイトは、政治、経済、社会に関する読み応えのあるブログを紹介し
その更新情報や注目されている記事をお伝えするサイトです。
昨今、ブログはその潜在力をまだ充分に発揮していないと考えておりますが、
ろんじんネットは読者と著者双方へのメリットをご提供させていただくことで
ブログの発展を微力ながら後押しできるのではないかと考えております。
突然の、記事内容に無関係のコメント失礼致しました。
藤田正美様の益々のご活躍を心よりお祈り申し上げます。

初めてコメントさせていただきます。

 率直に申しまして、現状のように政府が円建て国債しか発行していない場合、日本政府の財政が債務負担を原因として危機的状況に追い込まれることはありません。
なぜなら、日本政府の債権者である日本の民間は、円建てである限り、今後ともずっと日本国債を買い続けることができるから。

 日本国債ですが、誰が買っているのかというと、(公務員を含めた)日本の民間です。(公務員を含む)個人や企業から預かっている預金、保険や年金の積立金を、銀行や保険会社といった金融機関が国債で運用しているということです。
 日本国債は国内消化率が95%で、残り5%が海外投資家保有分ですが、海外投資家も日本国債は円建てで保有しています。円建てということは、海外投資家としては日本人から円を借りてきてその円で日本国債に投資を行うわけです。つまり、100%自国通貨の円建て国債である以上、実質、日本国債は100%国内資金によって消化されているということになります。
 要するに、日本国債の債権者は日本の民間であるということ。

 日本政府ですが、国債で調達した資金を支出にまわすわけです。それは消費や投資にまわすということで、国債で調達した資金を政府は“使ってしまう”ということです。
 では、日本政府ですが、国債で調達した資金を誰に支払うという形で使うのかというと、(公務員を含む)日本の民間に対して支払うという形で使うわけです。
 要するに、日本の民間が政府に貸し付けた資金は、政府支出によって民間のフトコロに戻されるということ。
 日本政府は債権者から借りた資金を支払いという形で債権者のフトコロに戻しているのです。

 政府に貸した資金が政府支出によって自分たちのフトコロに戻ってくるということは、民間が保有する資金が、政府に貸し付けた資金分、そっくり増加するということ。いわゆる信用創造です。そして増加した資金を、民間は再び国債購入に充てることができるということ。
 要するに、民間の側にしてみたら、政府に貸し付けた資金が政府支出によって自分たちのフトコロに戻されて、戻ってきた資金を、再び国債購入に充てているということです。

冒頭で、日本政府の債権者である日本の民間は、円建てである限り、今後ともずっと日本国債を買い続けることができる…、と申し上げましたが、それは、政府は国債で調達した資金を、政府支出という形で政府債務の債権者(日本国債の購入主)である日本の民間のフトコロに戻すことによって実現されているわけです。
 日本の民間としては政府から戻ってきた資金で再び国債を購入する。再び国債の購入に充てられた資金も結局は政府支出によって再度民間のフトコロに戻される。日本国債の買い取りというのは、これを繰り返しているだけなのです。
 国債資金の流れは「民間のフトコロ→国庫→政府支出→民間のフトコロ→国庫→政府支出→民間のフトコロ→…」といったもの。

このように資金が循環しているので、日本の民間の側において国債買い取り資金に限界はありません。
「血管という環状パイプを循環しているのだから、心臓が体に送り出すことができる血液の量に限界はない」というのと同じです。
債権者の側で、国債購入資金の量に限界はない以上、政府としては国債を発行すれば、必ず必要とするだけの資金を調達することができるので、日本政府の財政が資金ショートをきたすことはないということ。
さらに利払い金にしても、結局、民間に支払われますから、将来的にも、利払い金もろとも、国債費で賄うことができるということです。

 このようにして、民間としては日本政府発行の国債を将来にわたって買い続けることができるので、日本政府の財政については、債務負担を原因として、危機的状況に陥ることは起こりようがないということ。

 どうして日本では、国債資金を国内で循環させることができるのかというと、日本国債が100%自国通貨の円建てだから。
 自国通貨建て資金の場合、国内でしか循環、流通しません。
 そして、どうして日本政府が100%自国通貨である円建て国債で借り入れを賄うことができるのかというと、日本は経常収支黒字国だから。経常収支が黒字になっているというのは、政府にせよ民間にせよ、外国から外貨建てでお金を借りてこなくてすんでいる状態だということ。

 以上が、30年も前からさんざん「危機的だ」と言われ続けながら、いつまでたっても日本政府の財政に危機的状況が訪れることがなかったことの理由です。

 そして、国債で調達された資金が民間のフトコロに戻されることに変わりはありませんので、今後とも、過去30年間と同じように、日本政府の財政が。“国債金利の急上昇”という形で危機的状況を迎えることはありません。

 日本国債の長期金利は、主要国と比較して飛びぬけて低い水準で推移していますが、それは、日本政府の財政には、実は問題などないからです。問題がないから、金利が極端に低いのです。
 金利が低いというのは、日本国債はリスクの低い金融商品ということで、日本政府の財政は、実は問題がないから、日本国債のリスクは低くなっているのです。

 国債金利上昇の際、金融機関が被る含み損についてですが、金利が上がるということは資金需要が上向いているということで、それは景気が良くなているということ。この場合株価が上昇して、金融機関が保有している株価の方で含み益が増加しますから、金利が上がった方が、金融機関が保有する債権や証券の含み益の総額はかえって増加すると思われます。
 さらに、日本国債で運用を行っているのは、その多くが年金資金です。年金資金というのは原則、満期まで保有しますので、含み損は問題になりません。

 ところで、去年からギリシャ、アイルランド、ポルトガル、イタリアという国々が財政危機に追い込まれています、いわゆるpig,s諸国ですがpig,s諸国は、外貨建て対外債務の返済が困難になったということ。
 外貨建て対外債務というのは、海外への支払いに充てるための外貨を調達するために国家として外国の金融機関や投資家に対して起こす借金のことです。要するに、輸入代金を輸出等で稼ぐことができていない国(経常収支赤字国)が、不足する外貨を工面するために外国の金融機関や投資家に対して起こしている外貨建ての借金のこと。
 返済ができなくなったら、国家として、輸入ができなくなるという借金です。
 で、IMFというのは、外債の返済が困難になり、借り入れという形でも外貨を工面することができなくなった国に対して外貨を緊急融資して、石油や穀物といった、当面必要となる物品を輸入できるようにして助けるというのが役割です。

 日本は経常収支黒字国で、世界一の対外純資産国です。つまり日本は、海外への支払いに必要となる外貨については、輸出や海外投資からあがる運用益(所得収支)で十分以上に稼ぐことができているので、海外への支払いに充てる資金は借り入れていないし、それどころか、海外への支払いに充てるための外貨を輸出等の稼ぎで工面することができていない国々に外貨資金を世界一巨額に貸し付けている国です。

 つまり日本の場合、pig,s諸国が陥っている状況は、完全に人ごとだということ。

 以上、長くなりましたが、読んでいただけたら幸いです。

藤田様、はじめまして。「ビジネスメディア誠」のコラムを読んで、こちらに着てきました。一度コメントを投稿させていただいたつもりですが、どうもうまくいかなかったようなので、改めてコメントを書かせていただきます。
Lawrence Summers が FT に Britain risks a lost decade unless it changes course という記事を書きました。表題からわかるように、イギリスが今の路線を続けると、日本のようになってしまうぞという論です。その中で彼はこんなことを述べています。
the reality is that the primary determinant of fiscal health in both the US and UK over the medium term will be the rate of growth. An extra percentage point of growth maintained for five years would reduce Britain’s debt-to-GDP ratio by close to 10 percentage points whereas austerity policies that slowed growth could even backfire in the narrow sense of raising debt-to-GDP ratios and turning debt unsustainability into a self-fulfilling prophecy.
このような見解に対して藤田様はどうお考えになりますか。
2000年から2010年までの政府支出増加ランキングで日本は世界183位で堂々の最下位で、世界最高の緊縮財政国家です。そのために政府債務対GDPランキングでも世界一になってしまったのではないでしょうか。
このことを頭に入れて Summers の言っていることを読むと、大いに納得ができると思います。
藤田様は Paul Krugman の見解に疑問を呈されましたが、Joseph Stiglitz も Lawrence Summers も Laura Tyson も同様の考え方をしていることは、頭に置いておいて下さい。

藤田です。コメントありがとうございます。ブログの更新をすっかりさぼっているのに、お読みいただいて恐縮です。

2000年になるまで、日本は大幅な財政支出を続けてきました(クルーグマン教授はそれでも不十分だったと言っています)。国債残高が急膨張したのはこのときです。それでも効果がなかったのはなぜか、ということではないでしょうか。僕自身はエコノミストではないので、そのあたりについて理論的に説明することはできませんが、政府需要をつくっても、民間需要がついてこなかったという説明が最も納得的です。

その理由として、人口問題と格差問題が挙げられるかもしれません。

日本が緊縮財政国家というお話にはちょっと疑問を感じます。税収に見合わない歳出を続けているのは緊縮とはいえないのではないでしょうか。それに民主党政権になってから過去最高の予算(復興関連予算を除いても)となっています。

スティグリッツ教授とクルーグマン教授は、需要の作り方についてずいぶん意見を異にしていると思います。どちらが正しいか分かりません。それは歴史が証明するのでしょうね。ただ日本が財政赤字を無視して政府需要をどんどんつくれるかというと、そこにはやはり危惧を感じます。

 コメントにご返信下さり、ありがとうございます。
 バブル現象は、資産価格の上昇ばかりに目が行きがちですが、その一方で負債の拡大が起こります。要するに「借金してでも株や土地を購入した方が得」と考えた動きが、バンドワゴン効果として働いているということでしょう。「低金利でファイナンスして財テクに走る」ことが、確かに広く行われました。
バブル崩壊が経済に悪影響を及ぼすのは、単に資産価格の上昇に浮かれて消費を拡大させた後に資産価格の暴落があったというだけでなく、膨大な負債はそのまま残り、経済の重荷としてのしかかってくることの方がむしろ大きいです。ちょっとやそっとの景気対策ではこの重荷を完全にカバーすることができないわけです。景気対策を打ったのに効果が薄かったと見られているのは、こうした構造の反映でしょう。
 サマーズの論についても反論が出ていますが、それは現在のイギリスの政策はそんなに緊縮ではないが、その割に効果がないではないか、だから積極財政策は間違いだというものです。ここに根本的な誤解があると、私は思っています。
 藤田様がおっしゃるとおり、政府需要をつくっても、民間需要がついてこなかったということは確かですが、民間の投資マインドを転換させるまでの政府需要はなかったと捉えるべきではないかと思います。それだけ、バブル崩壊による負債の重荷は大きかったわけです。
 なお、マンデルフレミングモデルは実証的には妥当せず、政府財政支出の伸びとGDPの伸びとの間には高い相関関係があることもわかってきています。(channel Ajer 島倉原 乗数効果を再考する をご覧ください。)
 日本が世界一の緊縮財政であることについては、「ひろのひとりごと」というブログ(経済成長を否定する国に未来はない)で、データが作られているのを、ご確認下さい。
 確かにおっしゃるとおり、クルーグマンとスティグリッツにも違いがあり、私はスティグリッツにより共感するタイプではあります。

藤田様、たびたび失礼いたします。朝香豊です。
前回は、藤田様への配慮に欠けるコメントで失礼いたしました。
ところで、私が前回のコメントで述べたことを、ブログの方でも記事にさせていただきました。(「バブル崩壊後に取るべき経済政策とは」という記事です。)藤田様を納得させることはできないかもしれませんが、一度ご覧になっていただけると幸いです。
よろしくお願いいたします。

藤田正美先生へ

はじめてご連絡させていただきます。
私は日経コンサルタント飯田洋次郎と申します。

弊社は37年間、全国の商工会議所向けに講演会・セミナーの講師をご紹介している会社でございます。

そこで今回
私の担当しております
神奈川県茅ヶ崎市の
茅ヶ崎商工会議所の新春経済講演会に於きまして

「どうなる?今後の日本経済~今日を読み、明日に備える中小企業経営~」

と題して

藤田先生をお招きして、ご高説をご披露いただきたくご連絡差し上げました。

希望日時は
平成25年2月26日(火)14:00~16:00
会場は
茅ヶ崎商工会議所 4階大会議室

聴講者は
茅ヶ崎市内の中小企業事業主など(約100名)

また
藤田先生へのお支払いは10万円(税込み)でお願いすることは可能でしょうか。
交通費は弊社で負担します。


不躾とは存じますが
何卒、地域経済の為、地域存続のためにご賢察をたまわり、良いご返信をいただきます様お願い申し上げます。

拝 ㈱日経コンサルタント飯田洋次郎

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