鳩山政権の大きなリスク

鳩山政権が誕生して1カ月が過ぎた。無難なスタートを切って、支持率も60%台を確保していたが、ここに来て急に雲行きが怪しくなっている。言うまでもなく、亀井静香・金融・郵政改革担当大臣のことである。いわゆる「モラトリアム法案」はまあ何とか大事にいたらずに着地したかに見えたが、今度は日本郵政の西川善文社長を辞任に追い込み、斉藤次郎元大蔵相事務次官を後任に据えるのだという。


役人だからいけないというのは、かつて日銀総裁の人事で民主党がさんざん振り回した議論だった。その意見には必ずしも与しないが、斉藤氏の場合は15年もたっているからいいというのも国民にとってはわかりにくい論理である。いい人はいいが、悪い人は悪いというのなら、天下りについてもそういう判断をしなければなるまい。しかし民主党はそれを一律禁止にしようとしている。これはどう考えてもつじつまの合わない議論である。

それに日本郵政は株式会社で委員会設置会社。本来、西川社長の後任経営者を捜してくるのは委員会の役割であって、担当大臣の役割ではない。いったいこの会社のガバナンスはどうなっているのだろうか。政権が交代するたびに、日本郵政が民営化と国営化のはざまで揺れ、経営陣が入れ替わるなどということになったら、ガバナンスも何もあったものではない。政治家の玩具になってしまう。それに振り回される従業員はたまったものではあるまい。かつてイギリスやフランスでも1960年代には国有化と民営化で何度も揺れた大企業が何社もあるが、21世紀になって日本がその愚をおかすのだろうか。

本来、郵政民営化のいちばんの眼目は、郵貯と簡保のカネをどうするのかというところにあった。ピーク時には両方合わせて300兆円を超えていた(今では少しずつ減っている)。その資金は大蔵省に預託されてそれが特殊法人やら何やらに回されていた。そこで焦げ付いたりした場合は、税金から補填されて預金者や保険者に支払われるという構造である。それが21世紀に入って大蔵省への預託義務がなくなったが、結局は資産の8割がたは国債の購入に充てられている。早い話が大きな国の財布になっているわけだ。

ここに大蔵省元事務次官を据えれば、結果は火を見るより明らかである。郵便・郵貯・簡保の一体運営という名の下に、国民から小口の資金を集めて国債の受け皿という性格をより強めることになるだろう。少なくとも当面は政府が100%保有する国営会社になるのだから、それに文句をつけられることもない。

毎年40兆円前後の国債を発行しなければならない財務省にとっては、大きな財布があることは心強い限りだ。本来、国は借金をするのに金融市場を通さなければならない。かつて戦費を調達するために紙幣を刷るという手段をとった国は枚挙にいとまがないほどだが、その後にやってくるのは極端なインフレだ。その市場で、民金の金融機関が「どれぐらいの金利なら国に資金を貸すことができるか」を判断する。他に資金需要があれば(景気がよくて設備投資や消費者への融資に資金が必要というような状態)、国への融資も当然のことながら金利を高くしてもらわなければ貸せないということになる。それが市場の「歯止め」なのである。

日本の場合、国と地方合わせてGDP(国内総生産)の160%を超えるような借金があるのに長期金利が低いひとつの理由は、郵貯や簡保のように黙って貸してくれる財布があるからである。だから郵政を民営化して民間の金融機関にし、市場による効率的な配分を実現しなければならない。不幸なことに昨年からの金融危機で、市場に対する信頼感が大きく揺らいでしまった。しかしそれは市場そのものの機能が損なわれたということではない。郵政民営化反対派が市場に任せることへの「恐怖心」を煽っているに過ぎないと思う。

それに斉藤元次官は、郵政の在り方についてはまだ何にも語っていない。というよりも、民主党政権内でもまだ郵政をどう改革するのかの道筋もビジョンも示されていない。このやり方は、鳩山首相がよく言う「国民目線」とか「公開」とかいう理念とどう整合するのか。

この郵政改革は、民主党政権にとって火種というよりはもっと深刻だと思う。やや大げさに言えば、火薬庫に火がついたような状況である。まだ消し止めることは可能だと思うが、残された時間は決して多くはない。

(Copyrights 2009 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)

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コメント

鳩山由紀夫がいかにごまかしの言い訳をしても、斎藤次郎は明らかに天下り・渡りである。
天下り・渡りを問題にしてきた民主党が自ら天下り・渡りをさせるわけであるから、鳩山由紀夫は責任を取るべきである。
民主党は異様な特異体質であり、亀井静香や千葉景子などのアキレス腱が多い。
鳩山・亀井・斉藤の社会主義国営の郵便局は決して使わず、
その代わりにコンビニ、ヤマト運輸、銀行、保険会社及び証券会社等を利用しよう。
そして、官営郵政を衰退させて、預金が国債の購入に使われないようにしたい。
国債の利払いは約10兆円になっており、税収の2割を超えている。

私も郵政民営化の一番の意義は、ここに記載されている通り郵貯、簡保資金を国から切り離すことだと思います。しかし、マスコミの報道は、業務効率化やユニバーサルサービスの話ばかり聞こえてくるように思えます。亀井さんの話も、そっちの話ばかり。亀井さんは、本気で分かって無いのではないかと思えてきました。国の金廻りが良くなれば、行政改革も難しくなりそうな気がして本当に心配。

代議士にも官僚がたくさんいますが、天下りとは・・特別行政法人や独立行政法人を自分たちで作り、そこに退職後に就職するのが「天下り」だと
認識していました。

国家体制 VS.資本主義 間の争いの構図ですね。国民は傍観的な審判でしかなさそうです。それが、日頃奴隷の如く搾取されていることへの見返りなのでしょう。
ここに来て対立の構図が明らかになってきたのは、資本主義の力がいよいよ国家をも飲み込む程に強力になってきた証ではないかと思います。右が国家体制なら、左が資本主義と言って良いかもしれません。
本来、民主主義制を採る国における政治は国民に主権が存在するはずですが、どうにも表向きの建前ばかりで実態が伴いません(元々そのようになると見通して制度化されているのかもしれませんが…)。市民革命の経験のない日本の国民は政治への関心が低く、最大の権利にして唯一の希望とも言える政治の場でも直接的な影響力を示せず、そこでもまた資本家らが裏では暗躍している印象を受けます。
米国では、たった1%の富裕層が残り95%以上の国民の所有する富よりも多くの富を所有しているような事態となっており、事態を危惧したマイケル・ムーア監督が「キャピタリズム ~マネーは踊る」と題した映画を製作して大衆啓蒙目的がてら全世界的に上映している最中です。新自由主義が行き過ぎであることは明らかと言えるでしょう。
もはや、国も資本主義も相当可笑しな状態になってきています。しかし、それもごく一部の資本家らの計画通りのようです。国民は、そういった背景事情を学んで理解し、主体性を発揮しなくてはなりません。その母体となる主たる組織は宗教団体である気がします。
その際、ネックとなるのが政教分離方針ですが、これもまたごく一部の資本家らが企てた標語である様子です。カルトを除く正統なる宗教団体の政治への関与は認められるべく認識を変えて行かなくてはならない気がします。

ふと目に留まったのですが、なるほどこんな事情もあるそうです。溜め息…。
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憲法学者で税法学の専門家でもある北野弘久・日本大学名誉教授は、課税強化によるダメージは宗教法人の政治活動の有無がポイントになると指摘する。

「米国にも宗教法人や公益法人への税制優遇制度はあるが、組織として政治活動をしないというのが大前提です。例えば宗教法人に所属する牧師などが職務上政治的発言をすれば、国税庁はそれを確認した時点で宗教法人の免税を剥奪するほど厳しい。公益認定は個別に調査して決められます。

 日本でも06年の公益法人改革で官庁が公益性の認定をする仕組みになりましたが、宗教法人は対象外でした。民主党はその仕組みを宗教法人にも適用すべきと考えているのだと思います。一般の神社仏閣や宗教法人なら公益性の認定を受けることができるが、創価学会のように政治と宗教が未分離で、政治性の強い活動をしている場合、税制優遇の可否を個別に判断する」

出典元:http://www.asyura2.com/10/senkyo79/msg/903.html
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