民主党、300議席の罠

8月30日の衆議院総選挙。新聞の獲得議席予想を見ると、まるで2005年総選挙の裏返しのようだ。単独過半数が取れるかどうかとか、比較第1党になって政界再編を主導するとかいう話はかき消えて、「300議席に迫る勢い」とか「300議席を超える」とか、民主党にとってはずいぶんと景気のいい話になってきた。

それだけ自民党に対する不信感というか、失望が強いということなのだろうと思う。今回の総選挙はいわば「消去法選挙」、民主党が積極的に選ばれたというより自民党、公明党の連立政権が否定されたのである。

なぜそうなのか。理由は明白だと思う。要するに、自民党の政策が悪いというより、結果が伴っていないということだ。年金記録の問題は結局のところいまだに解決していない。医療、とりわけ地域医療は崩壊しかかっている。核持ち込みに関する外務省の秘密文書の問題はほったらかしだ。派遣の問題も、雇用の問題も選挙で負けそうだというので大慌てで対策を打ち出した感じで、国民の不安を取り除く役に立っていない。

今回の選挙で民主党に投票しようと思っている人も、決して民主党のマニフェストを評価しているわけではない。たとえば高速道路の無料化など、どうしてそれほど急ぐ必要があるのだろう。本来、高速道路は通行料金で建設費を回収したら無料化という道筋だったはず。それを次から次へ高速道路を造り、料金プール制度などという都合のいい制度を設けるから、いつまでも無料化ができないでいる。そのシステムをそのままにして、料金だけ無料かすれば税金で費用を賄うという話にしかならない。それでは本末転倒もいいところなのである。こういうところに民主党の政党として未熟なポピュリストぶりが表れてしまうのだと思う。

それだけにもし民主党が単独過半数どころか300を超える議席を獲得したら、「増長」してしまうのではないかと恐れる。2005年の郵政総選挙で、民主党は何と言っていたのか。「郵政問題だけで民意を問うた選挙であり、すべての問題について自民党に白紙委任したのではない」と主張したのではなかったか。同じように、今回の選挙において民主党が地滑り的大勝を遂げたとしても、それは民主党に白紙委任したわけでも、民主党の政策を丸呑みしたわけでもない。

そこのところを政治家はきちんと認識すべきである。そうでないと自民党と大して変わらない政権党ができてしまう。閉塞状況にある政治を打開しなければならないのは、日本という国が閉塞状況にあるからである。国民総生産を100兆円増やすなどと言っても、実際問題、どうやって経済を立て直すのか、その処方箋は自民党にはなかった。もちろん民主党が処方箋をもっているわけではない。しかしこの閉塞状況の中で「責任力」などと言われても、その言葉で説得される人は多くはあるまい。

だから民主党にとっての問題は、日本の閉塞状況を把握し、それをどう打開していくのかという道筋をつけることなのである。その過程では、国民に対して苦しい選択を迫ることもあるだろうが、それをしてこそ一人前の政党である。だいたい消費税というか増税論議をしないという公約ほど嘘っぱちなものはない。昔、アメリカでもブッシュ(パパ)だったか、「増税はしない」と声を出さずに言って、“read my lips” という言葉を流行らせたことがあったが、結果的にはそれは大嘘だった。それに800兆円を超える国の借金をどうするのか、それを孫子へのツケにしないためには、現在の世代が払うしかないのだから、節約は当然のこととして増税しなければならないのである(もちろんどういう形で増税するのかという問題があるからその議論は必要だ)。

そして民主党には、この選挙で圧勝しても、謙虚に政治の在り方というか政治哲学を追求してほしいと思う。アメリカのオバマ政権が、オープン・ガバメント・イニシアティブという「運動」を展開している。そのキーワードのひとつは「トランスペアレンシー(透明性)」だ。政府というものは一部の権力者のものではない。国民に依託されて、国を統治しているのであるから、政府はできるだけオープンでなければならないというのがその哲学である。たとえその時には公表できない「密約」であっても、たとえば30年後には公表して歴史家の審判を仰ぐというぐらいの覚悟が必要である。権力の行使にはそれだけの責任が伴うものだ。核持ち込みをめぐる外務省そして自民党の姿勢には、その責任感が欠けている。これなどは、自民党には絶対できないテーマであり、民主党にとって絶好のテーマなのだと思う。

ここで選挙に勝って、民主党(というより鳩山代表)がどれだけ政治哲学を打ち立てることができるか、言葉を換えれば「友愛」をどれだけ具体化できるかが、日本の閉塞状況を打開できるかを占うと言っても過言ではない。それができなければ、民主党政権は悪くすれば2年も持たないかもしれない。

(Copyrights 2009 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)

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コメント

藤田様のサイト、いつも興味深く
拝見させていただいています。

カレント誌の文章や編集会議でのご発言と併せて、
大変勉強になります。

ご多忙なことと存じ上げますが、
サイトの更新、今後も楽しみにしております。

日本の閉鎖状況を打破することは無理である。
我々が宇宙人だとして、この地球を眺めた時、客観的に見て、この日本という国が、これ以上の成長が出来る国に見えるのだろうか?

少子化で人口が減っているのもそうだが、カリフォルニア州ほどの面積に、しかも国土の8割が山岳部で、そんなところに、アメリカの3分の一の人口が住んでいる。食糧自給率は4割。あらゆる鉱物資源を外国からの輸入に頼っている。こんな国が、現在、世界第三位の経済大国でいる。これらのことを見ていると、日本は相当の無理をした不安定な自転車操業国家だといえる。

移民を入れたらという話だが、移民を入れたところで、中国・インド・ブラジルなどの広大な国土を持った人口大国に勝てるのだろうか? はっきりいって、無理である。

民主党の公約には、日本の成長戦略が入っていない。ある意味、正直である。

もう、日本という国は、国家の衰亡のリサイクルから見た場合、明らかに衰退期に入っているのである。

まるで疎かった政治の世界に関心を持ってここ数年その動向に注目して来ましたが、多くの方が気付いていないかあまり知らないことがあるかと思います。
それは、日本は敗戦国であり未だに半植民地的な制約や足枷を架せられているであろう点です。自分でネット等を利用して調べてみないことには本当の姿は見えて来ません。
政治家の発言は、自身や自陣営たる政党に都合の良いように言っているに過ぎず、都合の悪いことは明かそうとはしません。

本当に体制を立て直す為には、まずは国家主権を取り戻すべく国益を尊重する保守系の護国派議員方が政治の主導権を握る必要があると感じます。
残念ながら、政権与党を担うに相応しい日本の政党はありません。
日本国民が政治を理解し、一丸となって動き出さない限りは、現状の改善を期待するのは難しいかもしれませんね。

"なせばなる、なさねばならぬ何事も。なさぬは人のなさぬなりけり"。
私が好きな上杉鷹山の残した名言です。
ちょうど今年のNHK大河ドラマ「天地人」の主役として脚光を浴びた直江兼続が家老として仕えた上杉景勝の子孫に当たるのだ、と知りました。
先達の苦労に比べれば、今の世の中はまだまだ豊かにして生温いことでしょう。
なすべきをなして、現状を打破するしかありません。

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