リーダーの素養

麻生太郎首相の支持率が急落している。最近の世論調査では30%以下という「危険水域」に突入したものもあるそうだ。景気の悪化が日に日に目につく上に、1人当たり1万2000円の給付金で、所得制限をつけるとかつけないとか、高額所得者は辞退せよとか、わけのわからない話になっていることが大きな理由だろうと思う。

KYというのは「空気を読めない」という意味だったが、最近は「漢字を読めない」という意味に変わったのだという。「未曾有」を「ミゾウユウ」、「踏襲」を「フシュウ」と読んだ麻生首相のおかげで、この漢字がずいぶん有名になった。総理が漫画を好むのは、漢字に振り仮名がついているからだ、などと解説する向きも自民党内にいるのだとか。こういった輩を「獅子身中の虫」というのだし、そういった連中がうろうろしているとその組織は「魑魅魍魎の館」になってしまう。それは冗談だが、漢字が読めないのは冗談ではない。

そもそもリーダーには教養というものが必要だ。理由ははっきりしている。人を説得して動かさなければならないからである。もちろん教養がそれほどなくても人間的な魅力があればリーダーとして通用することもある。高等教育を受けておらず「今太閤」と呼ばれた田中角栄元首相はその例かもしれない。しかしそれは希有の事例であって誰でもできることではない。

人を説得して動かすためには、人が納得するだけの材料がいる。だから指導者と呼ばれる人々は先人の言葉をたくさん知っている必要がある。『ザ・ホワイトハウス』というアメリカの連続テレビドラマがある。現実のホワイトハウスが、このドラマで描かれているようなものかどうかはわからないけれども、いちばん驚くのはそこで働く上級スタッフがきわめて高い教養の持ち主であり、博識であることだ。引用の出所はすぐに言えるし、さまざまな数字が驚くほど頭に入っている。そして歴史をよく知っている。

もちろんドラマだから、実際には違うのだろう。しかし一方で日本の総理を扱ったドラマで、補佐官や周辺にいる上級スタッフの博識ぶりに感心することなどあっただろうか。これはそんなことが現実の世界にはないからなのか、それともドラマを作る人々がそういうことに興味がないのか、どちらかだろうと想像する。

『ザ・ホワイトハウス』では、大統領自身がノーベル経済学賞を受賞した学者という設定だから、知性として非常に優れているのは当然かもしれない。ドラマの中でも大統領が語る蘊蓄にスタッフが辟易する場面がある(この忙しい時にそんな話を聞かされるのはたまらないというわけだ)。そして大統領が連邦議会の議員などについて話す口ぶりからすると、他の政治家の知性にはあまり感心していないようだから、アメリカでも政治家の教養度は総じて低いということかもしれない。

そういえば、ブッシュ(パパ)政権の時だったか、ダン・クエールという副大統領がいた。ポテトのスペルを間違えたというのでさんざんからかわれ(potatoをpotatoeと綴ったという)、確かテレビドラマでも知性派と呼ばれる女優から揶揄されたりもした。今回、共和党の大統領候補だったマケイン上院議員が選んだ副大統領候補、サラ・ペイリン・アラスカ州知事も、アフリカを国名だと思っていたとか、知性を疑わせるような話が飛び交った(とくに敗北後、マケイン陣営からそういった話が数多く流れたというから、負けた責任を押しつけようとしたということだろうか)。

クエールにせよペイリンにせよ、副大統領とはいざという場合には大統領になる存在だということが一番の問題なのである。大統領になったときに、あの程度の知性で務まるのかという疑問がつきまとうようでは、大統領の職責に堪えない。クエールが現職の副大統領のときは、よく「クエール大統領の悪夢」というような言葉が雑誌に載っていたような記憶がある。ブッシュ(パパ)大統領は日本の晩餐会の席上、吐いて倒れたことがあったから、そういった心配も杞憂だと笑い飛ばすこともできなかったに違いない。もしクエールが大統領になっていたら、世界は大混乱したか。それは誰にもわからない。

そうやって考えてくると、麻生首相の最大の問題は、漢字が読めないということだけではなくて、それが首相としての教養を疑わせるものだということである。こういった話は当然のことながら、各国の大使館から情報として送られているはずで、それが麻生首相のプロフィールとして各国の「機密書類」に書き込まれていると思うと、ちょっと恥ずかしい気もする。

ひとつの国を率いていくには、単に多数票を獲得するだけでは足りない。一時の勢いで多数票を取っても、その後の政策や国民に対する説得がなければ支持率は維持できない。たとえ一時は支持率を落としても、その政策の正しさがやがて理解されるというようなこともない。国民を説得する力は、知識や教養から生まれる。

『ザ・ホワイトハウス』で再選をめざす大統領とスタッフのやり取りでこんな場面があった。知識をひけらかしていると受け止められることを恐れた大統領は、庶民的に振る舞おうとする。それに対して上級スタッフが「それは間違いだ」と主張する。世界最強の国の指導者として、その地位にふさわしい素養を備えていることを表に出すべきだというのである。

僕もそのスタッフの意見に賛成だ。歴史や思想に関する深い教養は、一国の指導者として必須である。海が荒れるような時には、その教養が一国の指針の基本となるからである。世界の大海が大荒れになっている今、日本丸の進路を示す船長の力量は果たしてどうなのだろうか、 国民の1人としてはなはだ不安である。

(Copyrights 2008 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)

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コメント

Business Media誠の「米国は再生できるのか?星条旗を見ながら考える」と題した記事と併せて拝読させて頂きました。
本件ブログの内容については全く以って正論ですが、米国をベタ褒めするのは勘違い以外の何物でもないかと思います(後者に関する批判は省略致します)。
ブログへの反論は難しいのですが、敢えて言わせて頂くならば、麻生首相の漢字の誤読問題はバイリンガルのサラブレッド(英才)教育を受けて来られたことが影響しているご様子です。
より完璧であるに越したことはありませんが、日本人の全体的な傾向として、マイナス評価ばかりでなくもう少しプラス評価があっても良いのではないか?と言う気は致します。
マスコミによる報道はその典型例で、褒めるよりも批判報道の方が圧倒的に多く、時に眉唾物に感じます(ニュースも暗い事件報道ばかりですね…)。
それによって事件を防ぐ効果を発揮している面もあるでしょうから一概に悪いとは言えませんが、やはりもう少し懐の深さもあっても良い気がします(一国の総理の資質論議に関して該当する指摘ではありませんし、政界が人材難である点は否めませんが)。
今の処は、与謝野氏を始め大臣を含めた麻生内閣への評価は、なんとか及第点を得ているのではないでしょうか。欲を言えば、もっと凄腕の手腕の発揮に期待したい処ではありますけれど。
有能でも狡賢くて言動不一致な悪徳詐欺師的政治家よりかは、まだ遥かにマシです。

消費税上げ、「不断の行革」前提に…首相が施政方針演説
http://backnumber.dailynews.yahoo.co.jp/?m=43324&e=aso_cabinet
第171回国会における麻生内閣総理大臣
施政方針演説
http://www.kantei.go.jp/jp/asospeech/2009/01/28housin.html

記念に置かせて頂きます。。増税は負担者にとっては皆嫌なものでしょうが、オバマ氏よりも余程良い熱弁ぶりにも聞こえて参ります。
また騙されているのでょうか…? 多少引っ掛かる点はあるものの、近代珍しくも実はかなり良い総理大臣ではないでしょうか。
元々自民党派の家で、個人的に民主党に傾いておりましたが、また今は麻生総理に期待しています。今後は分かりません。政界の正常化が果たされんことを願っております。

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