危ないポピュリズム

どうも民主党の小沢代表という人はよくわからないところがある。国会で焦点となっている道路特定財源となっているガソリン税などにしても、もともと民主党は「特定財源は一般財源化すべきであり、一般財源にするなら暫定税率は存在意義を失うから廃止すべきだ」という議論をしていたはずだ。それなのに、暫定税率を廃止するなら修正に賛成すると、暫定税率外しが本命というような発言をしていたからである。

まあ与党と野党の間でどう修正するかがようやく焦点になってきたばかりだから、そう目くじらを立てることもないかもしれない。それに、テレビで放映された発言だから、どういう流れでそういったのかもわからない。しかしこの問題では「ガソリン値下げ隊」というような発想がもともと民主党にはあった。ガソリンが高騰している時だけに、値下げをすれば庶民の支持が集まるだろうと踏んだのだろう。どちらかと言うと、昔の社会党の発想に似ている。小沢代表の発言もその流れでとらえると、一貫性があるように見える。

しかし、暫定税率分2.6兆円という税金を「減税」して、その分はどこで補おうというのかがさっぱりわからない。まさか無駄を削ればそれぐらいの金は十分浮くということではあるまい。この減税は所得税の減税ではない。だからかなり限定的にしか庶民の懐は潤わない。つまりこの減税によって景気浮揚効果があるとは言いにくい。

やや過激な言い方をすれば、民主党の主張は「税制の抜本改革」への道ではなく、とりあえずの「人気取り」だと言えなくもない。原油が高くなっているのは単に投機資金が流れ込んでいるという理由ではない。市場の構造自体が原油相場を押し上げる方向に変わってきている。供給面ではすでに原油生産がピークを過ぎた(少なくともピークを迎えつつある)かもしれないという見方があり、なおかつ大きな油田の上に存在している国は、政治的に不安定であるという状況がある。需要面では、中国やインドといった経済が急拡大している国のエネルギー需要が急増し、それが石油や石炭への需要を押し上げる。

石油が昔のように安くなるわけではないのならば、国が取るべき政策は、ガソリンを安くして消費を促進することではあるまい。むしろ価格はそのままにして消費者の節約を促す一方で、暫定税率分を電気自動車などの開発に投じるというほうがよほど理に適っている。この政策は環境問題にもプラスだ。「環境税」のようなものにするという主張もあるが、財政の柔軟化という意味では、あまり特定財源化しないほうがよさそうだ。

ガソリンを値下げすべきだというような政策は「ポピュリズム」と呼んでもいいだろう。民主主義国の政治は、常に頭数が問題になるだけに、数をたくさん稼ごうとすれば大衆迎合的な政策から完全に離れることはできない。しかしポピュリズムに偏った政治は必ずと言っていいほど失敗する。それは中南米を見ればわかることだ。また改革を進めて急成長中のインドでも、2008年度の予算では農民票を当てにして「徳政令」を実施する。それが格差のひどいインド経済の抜本的改革にはまったくつながらないばかりか、むしろ問題を固定化してしまうことがわかっているのに、そういった選択をする。そのツケは決して小さくはないはずだ。

その意味で言うと、東京都の石原知事の政策も、ポピュリズムそのものであるという気もする。いま東京都議会でもめているいわゆる「石原銀行」にしても、中小企業支援という美名で人気取りをし、結局は都民の税金をドブに捨てたようなものだ。倒産寸前の会社に融資して逃げられたなどというのは、恥ずかしいというより借り主とグルになった詐欺行為があったのではないかと疑われても仕方がない。そんな杜撰なやり方は銀行とは呼べない。その結果、400億円もの追加出資を税金から支出してほしいという。それを出しても早晩行き詰まることは分かり切っているのに、いま行き詰まれば1000億円必要だから400億円のほうが「安い」と強弁する。ポピュリズムの後始末は高くつくという典型例に思える。

実際のところ、今の日本にポピュリズムをもてあそんでいる余裕などない。800兆円を越える国の借金をどう返していくのか、2011年にプライマリーバランスという目標もすでに危うい。その方向性が見えてこないと、下手をすればこれまで黙って国債を買っていた投資家にそっぽを向かれる可能性もないとは言えない。もしそんなことになったら、地方銀行などは国債の評価損でまたアップアップすることになる。

日本はいまどういった国になるべきかという明確なビジョンをまったく欠いている。多くの政官財の指導者たちも深刻な「ビジョン欠乏症」にかかっているように見える。もちろん政治家に問題があるのは有権者の責任でもあるが、やはり指導者には指導者としての特別の責任がある。問題は、この慢性病には即効性のある治療法がないことだ。そして日本がもし一流かせめて一流半ぐらいの国でいたいと思うなら、残された時間は決して長くはないのである。

(Copyrights 2008 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)

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コメント

小沢氏に対する印象は、TVタックルで浜幸さんが言われていた通り、これまで悪さばかりしてきたというのが図星ではないか?という印象です。
そう考えれば、立場変われば言うことが変わっただけで本質は変わっていないのだろうな、と合点が行きます。
民主党が先の衆院選で負けた為、選挙に強いとされる同氏が担ぎ出されただけでしょう。個人的には全く信用していません。

日銀総裁人事に関しても、同氏の最大の支援者が京セラ・KDDIグループの稲盛和夫元会長であることから、NTTグループの筆頭株主である財務省からは日銀総裁を選出したくないといった背景事情があるのではないでしょうか。
適任かどうかよりも言うことを聞いてくれる人物かどうかで選んでいる気がします。

ガソリン税に関しては、価格弾力性は比較的小さいでしょうので、暫定税率は廃止し、その減税分はコスト削減で吸収すべきかと思います。財政の柔軟化は是非とも必要でしょうが、税の利用目的は明確化し、税収の配分変更は政官のリーダシップによって成し遂げるべきかと考えます。
保守派の抵抗によってそういった当たり前のことが成し得られないのが大きな問題ですね。社会がおかしくなったのも当然です。

※歯に衣を着せぬ発言をしてしまいましたので、ご高覧後に削除して下さい。

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