政治とは共感である

福田さんが小泉内閣の官房長官だったとき、慇懃無礼というか木で鼻をくくったような会見の様子に不快感があった。目の前にいる記者の後ろにいる国民に向かって説明しているという事実を忘れているとしか思えないような態度だった。政治家は選ばれて国民を代表しているのであって、国民の上に君臨しているわけではない。民主主義で最も基本的なこの原則を、福田さんは知らないのか、忘れているのか、どちらなのだろうと思ったものだ。

総理大臣になってからもその態度は基本的に変わらない。要するに、国民を「説得」しようという姿勢が見られないのである。野党の質問に苛立って、「どうせ賛成してくれるわけではないんでしょう」と言い放った。そして年金問題では、「公約違反」を記者団に追及されて「そう決めつけられているときにいくら反論しても仕方がないでしょう」と答えた。リーダーとは、自分が正しいと思っていても、それで人を説得しなければならない。説得を放棄したときにはリーダーの資質を疑われても仕方がない。

これは話し方だけの問題ではない。説得しようという姿勢がみられないのは、おそらく福田首相に他者に対する「共感」がかけているからである。小泉首相の支持率が高かったことを説明できる一つのシーンを思い出していただきたい。大相撲で、貴乃花だったか膝の痛みをこらえて優勝したとき、小泉首相は優勝杯を渡すときに「感動した」と率直に語ったのである。それは一国のリーダーが多くの国民と「感動を共にした」シーンだった。

ハンセン病患者が隔離され、病気の実態がわかってきた段階でもなかなか救済措置が取られなかった問題で、患者が国に謝罪と補償も求めた裁判があった(いわゆるハンセン病裁判)。そして熊本地裁で患者側勝訴の判決が出た。国はもちろん控訴する方針だったが、それを小泉首相がひっくり返した。官邸のリーダーシップで解決に導いたのである。国民はそういうところに首相の決断を見るものだし、首相の人柄を想像するものだ(そのイメージが実像に近いかどうかはとりあえず関係ない。どのように見えるか、それが重要なのである)。

さて福田首相はどうか。C型肝炎訴訟や年金問題で首相の発言を聞いた人びとは、福田さんがこうした問題で国民に共感を持っていると感じるだろうか。「僕は詳しくない」とか「公約違反と言うほど大げさなものか」とか言う発言を聞けば、国民はそういった問題に関心のない首相なのだと感じるだろう。とりわけ肝炎訴訟では総理の決断が促されている。原告団の要求を呑むのか、呑まないのか、どちらにするとしても、総理として原告団や国民に語りかけることが必要だ。それが政治家の役割だと思うが、福田さんにはどうやらそういう気持ちはないようだ。

僕がこのように感じるのは、実は小泉さんという異端の総理がいたからである。それまでの日本の総理は、あまりはっきりモノを言わないというか、言うとしてもまるで他人事のようなしゃべり方をするのが普通だった気がする。とりわけ宮沢総理などはまるで評論家のような話しぶりだった。それに比べると、小泉総理は自分が言いたいことがあるときは、短い言葉ではっきりと言うのを得意とした。「冷たい」というのが自民党内の評判であるらしいけれども、国民は小泉総理をそうは思わなかっただろう。

多くの政治家が妙に評論家的な物言いをし、それを奇異に思わないのは日本語という言葉主語をはっきり言わないでも通じる言葉であるからだ。街頭インタビューでよくある場面。「消費税の引き上げが言われていますが」と聞かれて、主婦とおぼしき人が「困るんじゃないですか」と答える。「私、困ります」と答えればいいのに、誰が困るのかわからない話し方をする。まさか自分の懐具合を他人に気取られたくないというわけでもあるまいに、わざわざ主語をぼかすのである。

言葉は政治家の命であり、その命の源泉は国民への共感である。共感のない言葉はおよそ心に響かない。2001年の同時多発テロのあと、ブッシュ大統領は「アメリカが攻撃されたのは、世界の自由と機会を導く灯台の中でこの国が最も明るく輝いているからだ。この光を消すことは誰にもできない」と演説した。そして支持率は86%にもなった。小泉首相は郵政解散のとき、郵政民営化ができたら死んでもいいと語って、総選挙で圧勝した。

失言の多かった森首相は、実習船えひめ丸が米海軍の原潜にぶつけられた事故のとき、ゴルフ場に居残ったことを問われて、ゴルフ場のほうが携帯がよく入ると答えて墓穴を掘った。福田首相は「公約違反というほど大げさなことか」と答えて支持率を10ポイントほど下げた。

こんなことで洞爺湖サミットまでもちますか、福田さん。

(Copyrights 2007 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)

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