権力偏執症

12月2日、ロシア下院の選挙が行われた。結果は予想どおり、プーチン与党統一ロシアの圧勝である。憲法改正や大統領弾劾なども可能になる3分の2の議席(定数450議席だから300議席以上)を統一ロシアが確保できるかどうかが焦点だったが、このハードルも難なく越えた。自由民主党や公正ロシアといった「プーチン翼賛政党」を加えれば、約390議席。これでプーチンはあと最低4年間は「実質最高権力者」でいることが確定した。


今回の選挙は、統一ロシアの名簿第一位にプーチンの名前を書いていたのだから、プーチン大統領に対する信任投票という意味合いもあった。そしてプーチンは過去8年近くにわたる大統領としての業績を圧倒的に支持されたということになる。もちろんそれは行政能力が優れているというだけではない。原油相場の高騰によって国家財政をほぼ「無借金」にすることができ、年金や社会福祉に回す資金ができたこと、それを背景に欧米に対して「強いロシア」を演じることができたことなどが圧倒的支持の背景にある。

しかし西欧諸国、とりわけアメリカはこの結果に納得していない。NSC(国家安全保障会議)のジョンドロー報道官は、「統一ロシア支持獲得に国家機関を使用したこと、プーチン政権が影響力をもつメディアの不公正な報道、反対派に対する脅迫、対立候補や政党が直面した不公正な取り扱いについて、われわれはずっと懸念を表明してきた」と述べている。またホワイトハウスも「選挙結果に対するさまざまなクレームに、ロシア政府自身が対応するよう求めていく」という声明を発表している。

AP電が伝えたところによれば、野党である右派連合(結局議席を得ることはできなかった)の指導者は、「有権者は、統一ロシアに投票するよう強制されたり脅かされた。もしそうしなければ給料や年金を払ってもらえなくなると言われたのだ」という。またロシアの選挙監視団体ゴロスは、統一ロシアに買収された人びともいると指摘する。あるいは最初から統一ロシアに入れると記入された投票用紙を渡されたというケースもあると証言している。サンクトペテルブルグの投票所では、野党に投票したエレーナという女性は姓を明かすことを拒んだ。報復を恐れたためだ。そしてこう言ったという。「この国には民主主義も言論の自由もない」

独裁者が選挙に介入するのはよくある話だ。しかしプーチン大統領は一般国民の生活水準を上げたことなどから支持率が高く、別に反対派の指導者を拘束したりしなくても、十分に勝てたはずだ。それなのに、あえて強権的(あるいは独裁者的)な手法を動員した上に、地方政府の知事にまで票集めを指示した。地方の知事は中央による任命制(当初は住民の直接選挙だったが、プーチン大統領がそれを任命制に変えた)であり、票集めに自分の首がかかっているとなれば、多くの知事は必死でノルマを達成しようとする。そうまでして圧勝しようとしたのは、3分の2の議席を何としても確保するという意図があったということだろう。つまり自分以外の次期大統領に対して、黙っていても「弾劾」という脅しをかけることになるし、もちろん憲法改正も視野に入るだろう。自分が首相になれば、首相の権限を大統領以上に強くすることもできる。あるいは憲法の大統領の任期(4年)規定や連続3選禁止規定を改廃することもできる。

ベネズエラのチャベス大統領は、ちょうど同じ12月2日に憲法改正を問う国民投票を実施した。大統領の再選禁止規定などを廃止しようとしたのである。その結果、反対票がわずかに賛成票を上回り、否決された。国民投票という直接民主主義的手法を取ると、権力者にとっては思わぬ結果を招くことがあるという典型である。チャベス大統領は敗北後の記者会見で「わが国が独裁国家ではなく表現の自由、批判の自由があることがわかっただろう」と負け惜しみを言っている。しかし大統領に批判的なテレビ局を放映中止に追い込んだことが否決された最大の理由であることは明らかであり、大統領にとっては大きな蹉跌というべきだろう。

チャベス大統領に比べるとプーチン大統領の権力基盤ははるかに強い。憲法改正への切符を手に入れたからだ。ただ、どのような形でプーチン大統領が権力の座にとどまるのかは不透明だ。シナリオはいくつかある。今、大統領を辞めて改めて来年3月の大統領選に出馬する(連続3選禁止という規定を逃れられるとされている)。首相に就任して憲法を改正し、首相を実質的な権力者にする。次期大統領を辞任させて、改めて行われる選挙に立候補する(これも3選禁止規定に違反しないとされる)。最近は、国家指導者という権限も義務もあいまいな地位に就くという動きもあるという。

次の注目点は今月17日だ。統一ロシアが次の大統領選挙に推す候補者を発表する予定だ。それがズプコフ現首相になるのか、イワノフあるいはメドベージェフの二人の第1副首相のどちらかになるのか、あるいはサプライズ人事になるのか。プーチンの心の中は測りがたいが、この人事もロシア政界将来図というジグソーパズルの一片には違いない。ただ、このジグソーパズルの図柄が、少なくともわれわれが知っている民主主義の絵とはまったく違うものになることだけは明らかである。

(Copyrights 2007 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)

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