政界ビッグバンの期待

民主党が大連立構想を拒否したところまで先週のこのコラムで書いたが、その後もまた民主党・小沢代表の辞意表明、慰留、撤回と事態はめまぐるしく動いた。このドタバタ劇で民主党に対する失望感が広がって、自民党のなかにはいま解散総選挙をすれば民主党に勝てるという意見があるようだ。伊吹自民党幹事長は、「予算を通さなければならないし、サブプライム問題で株価がおかしくなりかかっているときに政治空白はつくれない」として早期解散説を否定している。ただ、政治の世界は一寸先は闇(安倍総理が政権を投げ出したことで我々も実感したはずだ)、何が起こるかわからない。

自民党は2005年の総選挙で305議席を獲得した。最近例を見ない雪崩のような圧勝である。ということは、いくら自民党が有利といっても、次の総選挙では必ず議席は減る。だから安倍総理は郵政造反組の復党を急いだ。だいたいその前の総選挙(2003年)では237議席と、過半数(241議席)すら確保できなかった。それが2005年に70議席近くも増やしたのは郵政民営化という台風並みの追い風が吹いたおかげである。追い風だけではない。ライバルの民主党は郵政民営化に対して対案を出すことができず、結局は「労組」という守旧派をバックにした「抵抗勢力」になってしまったからだ。

民主党にとっては、今回の「事件」が逆風になるのは事実だが、あの郵政解散の暴風雨と比べれば、そうひどいわけではない。それに新テロ特措法で原則を貫き通せば、それに賛同する有権者も少なくはないはずだ。だから、解散・総選挙をやれば、連立与党が3分の2という議席を失う可能性が大きいということになる。そうなったら、たとえ民主党に勝ったとしても、連立政権は二進も三進もいかなくなる。参議院で否決された法案を衆議院で覆すだけの議席がなければ、それこそ「対立法案」は一切通らない。

そうやって考えると、今回の大連立騒動は、総選挙後のことを見据えての「予行演習」だと言えるのかもしれない。もちろん民主党が単独で過半数を取る可能性はほとんどないし、社民党や国民新党とは連立を組めても、共産党とは組めないだろうから、連立で過半数を取る可能性も限りなくゼロに近い。小沢代表が言ったように「民主党は力不足」なのである。つまり今年の参議院選挙で生じた衆参のねじれは、一度の総選挙では解消しない。

そこで大連立がにわかに現実味を帯びてくる。しかしそれは自民党と民主党の大連立なのか、それとも保守からリベラルまで幅の広い自民党と民主党を合わせてシャッフルするのか。たとえば今年の参院選。民主党が勝った理由は、小沢流の一人区選挙戦にあった。要するに農家に対する戸別所得補償が効いたのである。これは大きな政府か小さな政府か、という論争で言えば「大きな政府」のリベラル的発想だ。そして重要なことは、自民党は小泉・竹中改革によって「小さな政府」に舵を切ったという事実である。

つまり日本の政治に、今までとは違う「対立軸」ができるかもしれないということだ。思い起こせば、郵政民営化も「効率推進派」と「現状維持派」の戦いであった。ユニバーサルサービスをめぐる論争も、現状維持派が正当化を図ったものである。そして総選挙によって効率推進派が勝った(それが国民生活にとって正しかったかどうかは歴史の審判を受けるしかない)。

従来の自民党は、リベラル的な発想ではなくてもバラまき政治をやってきた。それが票につながったからだ。今回も福田総理は、大あわてで老人医療費を上げるという政策を撤回した。しかし今さら自民党が「大きな政府」に戻れるわけではない。何しろ、「財源をどうするのか」という問題がつきまとうからである。民主党を批判するときに使う財源論で、自らの首を絞めるわけにはいかないはずである。自民党が「小さな政府」指向となり、民主党が「大きな政府」指向となってくれれば、国民にとってはわかりやすい二大政党ができる。そしておそらく自民党や民主党の中には、政策の方向性が合わないという理由で離党する議員も出てくるのかもしれない。実際、最近の自民党幹部はよく「民主党の中にもわれわれに同調したい人がいる」などと秋波を送る発言が聞かれる。

とりわけ年金や医療は、この大きいか小さいかの論争の大きなテーマである。まだ国民的な意識が高まっているとは言えないけれども、日本の将来を考えたときに、アメリカ型で行くのかヨーロッパ型で行くのか、それとも第3の道があるのか、真剣に議論し、選択しなければならないときが迫っていると思う。永田町の論理だけではない政界再編ができれば、日本の政治も有権者も成熟してきたと言えるのかもしれない。権力亡者のような老人が仕掛ける大連立などさっさと葬って、「政界ビッグバン」が早く来てほしいと思うのは私だけではあるまい。

(Copyrights 2007 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)

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