自民党の無原則
インド洋での給油継続をめざす政府が補給支援法を閣議決定した前後から、急に国益だとか国政の停滞だとかいう言葉が飛び交うようになった。後方支援の話だというのに、何だかキナ臭いと思ったら、「大連立」という超大玉の打ち上げ花火が上がって、びっくりである。民主党が拒否してやれやれだが、もしまかり間違って民主党が受けたりしたら、日本の政治はお先真っ暗になると思って、福田さんと小沢さんの党首会談を注目していた。
だいたい衆参がねじれて国政が停滞するというのも妙な話なのである。自民党と野党が鋭く対立する法案は参議院で否決されるだろう。それは分かり切った話である。しかし何も野党とりわけ民主党はすべての法案に反対しているわけではない。ある民主党の議員が「法案の60%はわれわれも賛成している」と言ったのを聞いたことがある。補給支援法だけしか法律がないわけでもあるまいし、補給支援法が成立しなければ国が動かないわけでもあるまい。国政がすべて止まるなどと言うのは、大げさに言い立てて国民の目を惑わそうとする意図があるのかと疑いたくなる。
挙げ句の果てに、大連立の話は民主党の小沢代表が持ち出したという話が流れている。真実のほどはわからないが、小沢さんの側から持ち出す理由があるかどうかを考えると、あまり納得できる論理が見つからない。補給支援法で自民党を攻めて、解散に追い込んで総選挙で一挙に政権取りというのが民主党が描いているシナリオだろう。それを何度も公言し、参院選でも政権交代の「最後のチャンス」と言ってきたのだから、もしここで小沢さんから大連立を持ちかけたのなら参院選で圧倒的に支持してくれた人たちに申し訳が立つまい。それこそ民主党崩壊の危機である。
むしろ大連立は自民党の側にメリットが大きい。民主党との大連立で補給支援法ができれば、アメリカに対しては福田総理のリーダーシップという大きな土産話ができたところだ。民主党に断られても、もともとは小沢さんが持ちかけた話という説を流せば、ある程度のダメージコントロールもできる。
ドイツでは2005年9月に行われた総選挙でCDU(キリスト教民主同盟・メルケル党首)・CSU(キリスト教社会同盟)連合がSPD(ドイツ社会民主党・シュレーダー党首)・緑の党に僅差で勝った。しかし議席は減らしたため、FDP(自由民主党)を連立に入れても過半数には届かず、かつ緑の党との協議も不調に終わったために、SPDと大連立を組むしか安定政権をつくる方法がなかったのである。
大連立などそう簡単に言ってほしくない。民主党の鳩山幹事長が「大政翼賛的」と言っていたがまさにその通りだ。国家の非常事態でもあるまいに、中曽根康弘元首相までもが「民主党はただちに大連立を組むべきだ」とは何とも理解しがたい。海上自衛隊がインド洋から撤収したからと言って、それが直ちに日本の不利益になってはね返ってくるとは思えない。ドイツやフランスはイラク開戦に反対して、アメリカとの関係がおかしくなった。それを修復するのに時間がかかったが、それでとんでもなく不利益なことがあっただろうか。日本とアメリカの相互依存関係は、インド洋で補給するかどうかで左右されるような底の浅い関係ではない。
国会審議の中で、共産党とやり合っていた福田総理が「いくら議論してもどうせ賛成してくれないんでしょう」と言ったことがある。一国の首相とも思えぬ短気というか短慮な答弁である。共産党が説き伏せることができるかできないかではなく、国民がその質疑を見て、福田首相の答弁に理があると考えるか、共産党に理があると考えるか、それが国会質疑の意味である。共産党からの質問など受け付けないと言わんばかりの態度を口に出したのには、いささかがっかりした。
大連立の問題とこの福田発言は、とくに関係ないように見えるが、福田総理の政治における原理原則論がちょっとずれていることを示すエピソードと言えなくもない。さっさと政治の大原則に立ち返って、衆議院の3分の2で補給支援法を再可決して成立させ、そういう「異常事態」を国民がどう考えるのかを改めて問えばいいのである。政治家がそこで毅然とした姿勢を示さないことには、官僚は様子見を決め込むだけ。この思考停止のほうが、補給停止よりも日本の将来にとってはるかに有害だ。
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