「皇帝プーチン」いよいよ

日本の政治がすっかり面白くなくなったところで、俄然、面白くなってきたのがロシアの政治というかプーチン大統領の身の振り方。来年3月がロシアの大統領選でプーチン大統領の任期は5月まで。3選は憲法で禁止されているから憲法を変えないかぎりプーチン大統領は立候補できない。しかしまだ50代と若いプーチン大統領は、当然、政治の表舞台から退く気はない。

それはプーチンの権力欲というだけではないだろう。韓国などと同じように、うかつに権力の座を譲ると、自分の「腐敗」を後から追及されたりもしかねない。権力者になるのも大変だが、どのように辞めるのかも大変だ。日本の政治家とはだいぶん緊張感も違うのだろうと想像する。

それに何と言っても、ロシア国民の支持率は高いのである。ソ連が崩壊してエリツィン大統領の時代には、ロシアはあらゆる面で混乱していた。1998年には通貨ルーブルが暴落、ロシアは債務不履行に陥っている。その間、庶民の生活水準は下がるばかり。しかしそのロシアは、今や強いロシアになりつつある。債務不履行に陥った国が、今や事実上の「無借金経営」となった。GDPの1.6倍もの債務を抱えるどこかの国など足元にも及ばない。

それをもたらしたのは、エネルギー価格の高騰だ。いまニューヨークの原油相場は80ドル前後。このまま高くなるとは思わないが、中国やインドなどのエネルギー消費量が急増しているだけに、相場が大きく落ちることは考えにくい。つまり天然ガスで世界一の埋蔵量を誇るロシアは、ますますキャッシュ・リッチな国になるということだ。エネルギー資源以外にはあまり見るべき産業がないとしても、資源産業だけでもロシアを賄うのに十分だ。

ロシア政府の歳入のうち、石油・天然ガス関連の収入が半分を越えている。採掘税と輸出関税だが、この税金は従価税であるため原油相場が上昇すれば税収が増えることになる。このところずっと財政黒字基調が続いているが、2005年度、2006年度はとりわけその幅が大きかった。今年の原油相場もロシア財務省の見通しよりも高くなっているから、財政黒字基調に変化はあるまい。しかも相場急落に備えて「安定化基金」もたっぷり積まれている。ロシアの懐具合が豊かになっていることは、それ自体、いいことには違いないが、その分、西側諸国のロシアに対する影響力が小さくなる。

むしろヨーロッパは、自分たちが使う天然ガスの元栓をロシアに握られている状況である。ウクライナとの天然ガス価格をめぐる紛争で、ロシアがウクライナへの供給を止めたとき、そのパイプラインの先にあるヨーロッパへのガスも当然のことながら影響を受けた。それだけではない。たとえばカザフスタンの石油は、ロシアに敷設されるパイプラインを通ってヨーロッパに供給されることになった。欧米諸国は、ロシア領内を通らずに地中海へのパイプライン敷設を希望し、画策していたが、結局はロシアが「勝った」わけである。税収もさることながら、このパイプラインによっても、ロシアの「テコ」が利きやすくなる、つまりは発言力が増すということだ。

そしてこの資源帝国に君臨するのが「プーチン皇帝」ということになる。プーチン大統領は、12月2日に行われる下院選挙で、政権与党、統一ロシアの比例代表名簿の1位になることを承諾した。これで統一ロシアの圧勝は決まったようなものだが、このとき首相になることも「現実的な案」として示唆したのである。ここでさまざまなシナリオがささやかれている。

一つは、9月に首相に就任したズプコフ氏が大統領選に立候補して当選、ほんのわずかの期間だけ大統領を務めて「健康上の理由」で辞任。プーチン「首相」が改めて大統領に立候補するというもの(これは憲法違反ではない)。さらに、憲法を改正して(今回の下院選挙で統一ロシアは憲法改正に必要な3分の2を確保すると見られている)首相と大統領の権力の割り振りを現在とは大きく変えてしまうというシナリオも考えられる。つまり実権のある首相にして大統領をお飾りにしてしまうというのだ。

さらに別のシナリオもある。ズプコフ「大統領」が憲法を改正し、大統領の任期を7年に延長、しかも3選も可能にした上で辞任。プーチン「首相」が大統領選に出るというのである。この場合、プーチン新大統領は21年間、大統領を務めることが可能となる。プーチン大統領は自分が憲法を変えて任期を延長する「お手盛り」をするつもりはまったくないようだが、ズプコフ「大統領」が憲法を改正するぶんには、たとえ西側諸国が嫌味を言ったところで気にしないということだろうか。

いまロシアは、政治も経済も動きが激しい。それなのに、日本はロシアの要人と会うたびにまず「北方領土問題」から入る。そんな硬直した姿勢で本当に冬眠から覚めた北方の熊とやり合えるのか、いささか心配だ。

(Copyrights 2007 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)

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