「明快答弁」と「慎重答弁」

前号で「日本の政治がすっかり面白くなくなった」と書いた。たしかに福田康夫首相の答弁は、なるほどと思わせてくれることがほとんどない。「まあいろいろあるから」というのでは、まるでご近所の町内会長さんみたいだ。そういえば、町内会長さんというのはまさに調整役。自分のビジョンというより物事が丸く収まるようにするのが役目である。しかし、一国の首相が町内会長さんと同じというのではいかにも情けないではないか。


福田首相の答弁でよく耳にするのは、「○○であれば、○○していく必要がある」という言い方だ。たとえば火曜日の参議院予算委員会で、医療についての現状認識を問われて、「安心・安全の観点から不足な状況があれば至急手当しなければならない」と答弁した。一国のリーダーとして「不足な状況」があると思っているのか、いないのか、を問われているときに、「あれば」と答えたら、国民には「はぐらかし」にしか聞こえない。

首相の答弁とは対照的に、舛添要一厚労相、石破茂防衛相の国会答弁は聞いていて面白い。もし福田内閣の支持率が上がるとか、または現状を維持するようであれば、福田さんは舛添さんと石破さんに金一封を差し上げねばならないのではないかと思うほどである。

舛添さんは、本人が母親の介護の経験から介護問題や医療問題に興味をもったと言っている通り、知識が豊富である。福島県立大野病院の産婦人科医が逮捕・起訴された事件、奈良県で起きた妊婦「たらい回し」事件の背景などについても、正確な知識をもっていることがうかがえる。通常であると、政治家や役所は、自分たちの責任を問われないことを第一に考えるものだと思うが、舛添大臣の場合は問題がどこにあるのか、それを解決するにはどうしたらいいのか、自分の頭の中で考える道筋ができているように思う。「女性は産む機械」発言でミソをつけた柳沢伯夫前厚生労働相と比べると、答弁の質の差は歴然としている。

石破さんも、さすがに防衛オタクと言われるだけあって、大原則も状況も把握しているように聞こえる。その知識を噛んで含めるように話す姿は、まるで小学校の先生だ。わかりやすく明快である。給油量の訂正問題について、転記ミスが起きたことを明らかにし、その誤りになぜ長い間気がつかなかったのかを国会に対してきちんと説明するとした姿勢には好感がもてた。閣僚として説明責任を果たしてくれれば、国権の最高機関である国会が国会らしい議論をすることも可能になるだろう。

官僚が答弁する場合は、とにかく言質を取られないようにという配慮が働きすぎて、何を言っているのかさえよくわからないことが多い。だからこそ小泉首相の時代に、政治家が答弁するということになったのだが、官僚が書いた答弁書を読むことしかできない政治家では実態は同じだ。その意味で、若林正俊農水相が、事務局が用意した答弁書をつっかえ、つっかえ読む姿は失笑ものである。ご本人も官僚出身なのだから、国会答弁書というものがどのように作られるものなのかは十分に承知しているはず。その内容で、国民が納得するのかどうかは、この夏の選挙でよくわかったのではなかったか。

政治家が官僚を使うのか、官僚が政治家を使うのか、という問題で言えば、本質的に政治家が官僚を動かすのでなければならないと思う。なぜなら、政治家が有権者の代表であり、その政治家が税金の使い道を決め、官僚組織はそれに従うのが民主主義であるからだ。しかし日本でその原則が声高に叫ばれたのは21世紀になってからだと言ってもいい。

それまでは政治家と官僚と財界からなる「鉄のトライアングル」が機能してきたからである。そして一般国民の利害とトライアングルの利害も大きく乖離していなかった。しかしバブルの崩壊を経て、トライアングルと一般国民の利害はもとより、鉄のトライアングル内の利害さえ一致しなくなっている。言葉を換えれば、それだけ日本の将来ビジョンを描くことがむずかしくなっているのである。そうなればなるほど、政治家の役割が重要になる。国民の負託を受けて、政治家は国の将来像を描かなければならない。

舛添大臣や石破大臣は、これまでの常識的な大臣の規を越えて発言することも厭わないように見える。このようなやり方で厚生行政や防衛政策にプラスの影響が出るのかどうかは未知数とはいえ、従来のやり方がいいわけではないのだから、何はともあれ変わるほうがいい。というよりは、変えなければならないのである。「変えたほうがよければ、変えることもやぶさかではない」なんて言い方ではね、もはや共感をえられませんよ、福田総理。

(Copyrights 2007 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)

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