リーダーの資質

福田新首相が国会で所信表明演説を行った。評価はいろいろあるのだろうが、全体的に印象が薄いと言っては礼を失することになるだろうか。それがなぜか考えてみた。


小泉首相のときはなんと言っても「郵政民営化」が強烈だった。郵政民営化があったからこそ、「改革」という言葉が力を持ったのだと思う。小泉さんが言っていた「誰もできないと思っていた郵政改革」だからこそ、それを主張するリーダーに本気を感じたのである。総理でいる間、国民に対してどれほどきちんと説明したかどうかにはさまざまな議論もあるだろうが、「郵政民営化」について、首相の姿勢が一瞬たりともぶれなかったのは立派なものだと思う。

安倍首相のときはどうだろう。「戦後レジームからの脱却」「美しい国」という言葉が心に響くことはなかった。保守本流なら、第二次大戦後につくられたアメリカ主導の憲法などを変えたいと思っているのはわかりきったことだし、美しい国というだけでは、何をどうしたいのかわからない。憲法改正といっても、憲法9条以外にどこに不都合があるのか、安倍さんの話を聞いていてもピンとこないのである。改革を継続するというが、いったい何を改革しようと思っているのかがわからなかった。安倍さんが復古主義者であることはよくわかったが、改革派にはどうしても見えなかった。

さて福田首相。言葉はなるほどきれいだし、演説も下手ではない。しかし心に響くものがないと思う。「自立と共生」とか「誠意」という抽象的な言葉はもとより、たとえば医療などでも「高齢者医療制度のあり方についての検討を含め、きめ細かな対応に努めてまいります」ではわからないのである。もちろん首相の一存だけで決められることではないと思う。それでも一国のリーダーとして「ここだけは譲れない」というものがあるかどうか、それを国民に訴えることができるかどうかが、リーダーの資質を分けると思う。

もちろん強いリーダーがいつでも望ましいわけではない。国に勢いがあるときには、むしろ調整型のリーダーのほうが間違いは少ないように思う。全体的に方向性がはっきりしていて、国民も官僚も政治家もやるべきことが見えているからである。しかし今は、日本がこのままずるずると衰退するのか、それとも反転して成長するのかの分かれ目にある。ここで舵取りを誤ると、それこそ日本が沈没してしまう危険性もあると思う。

たとえば所得の格差や中央と地方の格差にしても、その格差を是正するというのはたやすいが、それではどうやって是正するのかという方法論はいまだに影も形も見えない。昔のばらまき政治には戻らないと福田さんも麻生さんも総裁選で語っていた。麻生さんはそれでも地方おこしのような話をしていたが、福田さんにいたっては準備不足を理由に具体論をほとんど語らなかった。それは今でもあまり変わっていない。「地域力再生機構の創設」といったことが目新しいぐらいだろうか(だいたい地域戦略を一元的に立案するという所信表明の言葉こそ、いかにも中央官僚が書いたような発想であると思うがいかがだろう)。

かつて一人当たりGDP(国内総生産)で世界一、つまりアメリカを抜いた、といって喜んだ時期もあった。もちろん為替相場で換算した数字であるから、実感とはやや異なっていた。半信半疑だった日本人は、どこが世界一になったのかとお互いに顔を見合わせたものである。しかし今はどれぐらいか。IMF(国際通貨基金)の数字で見ると、日本はいつの間にか18位である。換算は通常の為替相場ではなく、購買力平価によるものだから、実感よりやや低めに出る傾向があるとはいえ、日本の実力はそう大したものではない。

通貨で見ても、いまやユーロの一人勝ち。ドルの地位低下も著しいが、円などはどこにあるのかと言いたくなるぐらい影が薄い。かつてアジアでは円を決済通貨にしようという構想もあったが、それはもはや夢ですらない。サブプライムローン問題で世界経済が揺れているなかで、日本の金融機関の傷は浅いようだが、それは日本の金融機関がリスクを取るという点で後れをとっているからだと聞かされると、喜んでいいのか悲しんでいいのか。

その意味で、今の日本に求められるリーダーとして福田さんのような調整型で本当にいいのだろうか。安倍さんにも経済政策ではほとんどビジョンを感じなかったが、福田さんの所信表明もあまりパッとしなかった。将来の日本のビジョンを語ることができるリーダーが現れるのは、いつのことだろうか。それまで日本という国が沈没しないことを祈るばかりである。

(Copyrights 2007 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)

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