遠藤農水相辞任と官邸の責任

農水相は官邸から見て「鬼門」の方向にあるのだろうか。疑惑の事務所費を「何とか還元水」としか説明できず、結局自殺してしまった松岡利勝農水相、絆創膏と事務所費の処理で参院選大敗の責任を取らされた赤城徳彦農水相、そして自分が組合長を務める農業共済組合で国の補助金を不正受給していた遠藤武彦農水相。3人も立て続けに職責を全うできない事態になってしまったことに農水省の職員も呆然としているだろう。

8月27日の新任閣僚の記者会見では、会見の冒頭に「最近、政治資金収支報告書の訂正をしたことはないか。もし誤りが見つかったらどうするか」という質問がされていた。そういう質問が出ることは当然予想されていたことでもあり、だからこそ安倍内閣は入念に「身体検査」したはずだった。ところがやはり1週間もしないうちに大臣辞任という事態になったのである。

遠藤大臣の場合、政治資金の収支に絡む問題ではなく、組合が補助金を不正に受け取っていたという問題である。それを会計検査院に指摘されたのが3年前。今年には不正受給分を返済していないことを再度会計検査院から指摘されていた。不正受給を指摘されていたのに放置していたのは、そもそも大した問題ではないと高をくくっていたのだろうか。金額が115万円だったからなのか、それともそんな事例は山ほどあるからなのか。補助金漬けと言ってもおかしくない日本の農業の実態から言えば、不正受給も蔓延しているかもしれないと想像する。

その組合の長が補助金を支給する側の農水大臣になる。このあたりがどうにも理解しにくい。遠藤氏は組合長を辞めていなかったわけで、補助金を支給する側と受給する側でトップに地位に就いているのは、明らかに「利害の対立」になると思う。これではわざわざ補助金を胡散臭いものに見せるだけだ。たとえ本人は厳正中立にやっているつもりでも、「痛くもない腹をさぐられる」ことにもなりかねない。第一、どうやっても「厳正中立」とは思われないのである。

なぜ安倍首相はそこに気づかなかったのだろうか。遠藤氏がそのまま農水相の地位にとどまった場合、自分の組合に有利になるよう取り計らったかどうかが問題なのではない。そういった利害の対立を持ち込まないようにすることが「不正をシステム的に防ぐ」ということでもある。まあ、もともと自民党の政治とはそんなことを気にしないできたということなのだろうが、それがお粗末な結果を招くということに気がついてもよさそうなものだ。

それにも増して重要なのは、安倍首相がいかに「改革」に向いていないかということも暴露してしまったことである。改革とは既得権益を打破することだ。日本の農業もまさに改革の最中にある。カロリーベースで40%を切っている食糧自給率をどうやって上げるのか、このまま放置すれば現在最も自給率の高いコメですらいつまで現状の水準を保てるかわからない。大改革が必要なときに、いってみれば既得権益を代表するような遠藤氏を農水相に据えるということは、改革をしないということを表明するようなものだ。実際、遠藤氏のインタビュー記事などを読んでも、大胆な発想は出てきそうもないという印象しかもてなかった。

小泉政権のときに大臣を務めた竹中平蔵氏の本を改めて読んだ。竹中氏のやり方にはいろいろ疑問もあるが、強引と言われようが何しようが、自分が改革のために必要だと思ったことをやり遂げようとしたことがよくわかる。この竹中氏が改革の先兵となれたのは、小泉首相のはっきりした具体的なビジョンがあったからである。それは「郵政民営化」だった。このことに関しては、小泉首相は党内を中心とするいかなる抵抗も蹴散らす覚悟をしていたのである。だからその覚悟に基づいて竹中氏も活動することができた。

その意味で改めて安倍内閣を見ると、まず郵政民営化のような具体的な改革のビジョンが安倍首相にはない。改革派を標榜するものの、それは財政改革などいずれにしてもやらなければいけない問題。そしてその結果、誰が痛みを受けるのかという具体的なビジョンがない。それがないから抵抗勢力を蹴散らすという覚悟もない。今回の改造人事にもそれが現れていると思う。

政治とカネの問題がいつまで安倍内閣を揺るがすのかはわからないけれども、ただ今後の政治の運営が厳しいことだけははっきりしている。やっぱり潔く政権を放棄しなかったことのツケは大きそうだ。

(Copyrights 2007 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)

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