議会のねじれ、保革のねじれ

参議院選挙に大敗したというのに安倍首相はすぐさま続投宣言。赤城農相を更迭し、 先の国会で改正したばかりの政治資金規正法の見直しを指示した。「事務が繁雑にな りすぎる」ということで、資金管理団体の5万円以上の支出にしか領収書添付を義務 づけなかったのに、今度は資金管理団体だけでなくすべての政治団体を対象に人件費 を除く1円以上のあらゆる支出に領収書の添付を義務づける方向だという。「それが 民意だ」と中川幹事長は言うが、選挙に負けるまでそれが民意であることに気づかな かった自民党や公明党、官邸の感度の悪さに呆れてしまう。

衆議院と参議院が「ねじれ」て、今後の国会運営が難しくなることは誰もが指摘する ところだが、どうやら「ねじれ」はこれだけではなさそうだ。普通なら、自民が保守 派、民主を中心とする野党が改革派である。だいたい半世紀にわたってほとんど政権 の座にいる党が改革派になることはない。改革とは既得権益を剥奪することだが、自 分たちが既得権益そのものである政党が改革を言うのは自己矛盾である。その構図を ぶっ壊したのが小泉首相だ。

小泉首相は「自民党をぶっ壊す」と言い「郵政民営化」を掲げた。特定郵便局長会は 自民党の集票マシン。それを民営化するということはそれまでの自民党なら「自殺行 為」である。だから自民党をぶっ壊すという言葉にも迫力があった。バブルがはじけ て有効な経済政策を打ち出すことができない自民党に、飽き飽きはしていたが政権を 担えるような野党がいないことであきらめていた有権者は、この小泉政権に飛びつい た。

小泉首相が引退し、安倍首相が後を襲った。そして言ったことは「美しい国」と「戦 後レジームからの脱却」である。この二つとも前向きの話というよりも「復古主義」 の話である。日本では安倍首相を「軍国主義のナショナリスト」と呼ぶ人はあまりい ないと思うが、海外から見れば、安倍さんはまさにそう見える。小泉首相に関しては 「改革派」という呼び方が海外でも定着していたように思うが、安倍首相に関して 「改革派」と呼ぶ外国のメディアには寡聞にしてあまりお目にかかったことがない。 だいたいは保守派とかタカ派と呼ぶのが普通である。

その意味では、安倍さんが閣僚の事務所費問題で強硬に反論したりするのはまさに 「保守派」ぽくってわかりやすくなったと思っていた。ところが、である。小沢民主 党は、農家に戸別所得補償をすることで「穀物自給率100%」を主張した。これは今 年度から始まった農業の規模拡大化政策へのアンチテーゼだ。耕作面積を拡大した農 家に絞って補助金を出して規模を拡大しようという政府の政策は、「小規模農家の切 り捨て」と小沢代表は主張した。世界各国が自由貿易協定やら経済連携協定で「囲い 込み」が進んでいるため、農業が犠牲にされるという不安感を農家は抱えている。民 主党はまさにそこを突いて選挙で勝った。自民党が「改革」によって市場経済主義に 大きく傾いたところで生じた問題で差別化しようとした結果だろうが、なんだか民主 党というより旧自民党みたいにも見える。

そして一方の自民党は、小泉改革では勝てないというつもりか、地方、農村の公共事 業復活を求める声が強まりつつある。さらに安倍内閣が「人心一新」ということで内 閣改造をするのに、「いままでのような仲良しクラブではだめだ」「挙党一致体制で」 といった注文が入りつつある。挙党一致とはすなわちかつての派閥均衡人事の別名な のかもしれない。安倍首相は「派閥の推薦は受け付けない」と言っているが、小泉時 代に比べると何となく弱々しい。結局、自民党は昔の自民党に戻っていくのだろうか。

自民党が改革を担うのか、民主党が改革を担うのか。ある外国の雑誌は、国民が改革 に対して持っている嫌悪感が表れたのが今回の選挙と書いていたが、この指摘はあま り当たっていないと思う。有権者は改革を忌避しているのではなく、改革の後にどん な社会が来るのかを見せてほしいと思っているのである。年金はどの程度払われるの か、医療はどうなるのか、食料はどうなるのか、税負担はどの程度すればいいのか。 その大きな構図を国民に提示できるのが、自民党なのか民主党なのか、そこはまだま だ不透明だ。それを示すことができた政党が次の衆議院選挙で勝つことができるだろ う。

大きなビジョンを示すことなく、ただ歓心を買うためにばらまき的な政策をするよう だと、また手痛いしっぺ返しを食らうことは確実である。それが自民党なのか、民主 党なのか。それは彼らの政策次第である。

(Copyrights 2007 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)

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