低金利・日本の歪み

アメリカのサブプライムローンの破綻によって世界的に株価が大暴落をした。FRB (米連邦準備理事会)が急遽、公定歩合を0.5ポイント引き下げたことで、ニューヨー クの株価が週末に戻したから、週明けの日本市場も下げ止まるのかもしれない(ただ 外人売りが進んで個人株主もそれにつられて売り急ぐようなことになれば、さらに値 を下げる可能性もある)。

それにしても世界を飛び回っているだぶついたカネの威力はすさまじいばかりである。 あれだけ円安に振れて、日本の輸出関連企業の株価を押し上げていた為替相場も、あっ という間に対ドルで10円近く円高になった。金利が安い円を借りてそれを金利が高い 外貨(豪ドルとか)で運用したり、株を買ったりしていたファンドが手仕舞いしてい るのだという。その金額がどれぐらいあるのかはよくわからないが、膨大であること だけは間違いない。

今回の世界同時株安の原因となったサブプライムローンとは、信用度の低い人向けの 住宅ローンのことだ。本来、住宅を買うだけの信用力がない人に融資するために、ア メリカの一部住宅金融会社は、たとえば最初は金利を安くして後から見直すとか、最 初は元金返済はなしといったあの手この手の「押しつけ融資」をした。住宅価格が値 上がりしていたこと、カネがだぶついていたことなどからそうした融資が膨らんでい た。もちろんリスクの高い債権なのだが、これを証券化することでリスクを分散した。 あまりにも見事に「分散」した結果、ヨーロッパや日本でも損失が発生している。

サブプライムローンの残高は1兆3000億ドル(ざっと150兆円)、その延滞率が今年 第1四半期で14%だという。今のところFRBは損失額を500億ドルから1000億ドルと見 積もっているが、もっと大きくなるという予想もある。1000億ドルとしても12兆円ほ どの損失だから、それを世界の金融機関があちこちで背負っているとすれば、それほ ど大きな問題ではなさそうに見える。ただうまく分散されているために、誰がどれほ どの損を被るのかがよく見えないというところに不安感がある。

それにしてもFRBやECB(欧州中央銀行)の動きは素早い。金融機関の間の流動性が不 足する懸念があると見るや、巨額の短期資金を市場に注入した。それでも株価が下げ 止まらないと、FRBは公定歩合を引き下げた(公定歩合の引き下げはどちらかという とアナウンス効果、つまり中央銀行はこの危機に腰を据えて対処するという姿勢を示 すことを狙ったものである)。もちろんこれで危機が収束するかどうかはわからない が、世界経済全体の成長力が強いこともあり、パニックになるようなことはないだろ うと思う。

イギリスの経済誌エコノミストが面白い指摘をしていた。「アメリカの消費がどう動 くか、それは懸念材料のひとつだが、FRBは金利の引き下げ余地が十分にあるから、 景気を刺激することができる」のだという。そこでふとわが日銀を振り返ってみると、 今もし景気が悪くなったら日銀は金利を再びゼロ金利にするしかないほど低い金利な のである。昨年春に量的緩和解除、7月にゼロ金利解除、今年2月に金利を1回引き上 げて無担保コールレートの目標を0.5%にしている。つまり今の日銀は、景気に影響 を与えるような金融政策をやろうにも、引き締めることはできても金利を緩和するこ とはほとんどできない状況なのだ。

これほどの低金利になったのはバブルがはじけてデフレに落ち込んだのが大きな原因 だ。バブルになったのは、資産インフレを見逃して金融引き締めが遅れたからである。 そしてしつこいデフレが続いたのは、政府が有効なデフレ対策を打てず、金融業界の 不良債権処理にあまりにも手間取ったからである。そして今、アメリカの住宅バブル がはじけてFRBはいろいろな手を打っているが、日本銀行はまだ十分な態勢ができて いない。

日本が異常な低金利でいたために、世界に過剰な資金を供給する形にもなっていた。 その過剰な資金が円安をもたらし、またサブプライムローン危機の引き金も引いてい るという一面もある。もちろん日本だけが資金の供給源になっていたわけではないが、 借り入れをして資金の運用効率を上げようというファンドを後押ししていたことは間 違いない。日銀は金利を引き上げたくても、世の中は「景気に悪影響を与える」の大 合唱。この8月にようやく引き上げと観測されていたが、今回の危機で吹っ飛ぶかも しれない。

世界第二位の経済大国だというのに、そして情報が瞬時に世界を飛び回るIT時代だと いうのに、どうも日本の政策決定のスピードが遅いという感じがする。時にはそれま での政策を否定してでも政策を転換する必要があるのだろうと思う。しかし日本の官 僚組織では、先輩の政策を否定するのは容易ではない。だから意思決定が遅れがちで あるというのなら、日本の将来はあまり明るくないような気がするが、いかがだろう か。

(Copyrights 2007 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)<_p>

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