総理の品格

それにしても、今週月曜日の松岡利勝農相の自殺には驚いた。あれだけ国会で追及さ れても「法に則って適正に処理している」としか言わない農相は、鉄面皮としかいい ようがないと思っていたからである。自殺の可能性があるなどとはまったく考えもし なかった。

この自殺で明らかになったことが2つあると思う。松岡農相の疑惑がますます真実味 を帯びたこと。そして安倍晋三首相が、自分の政権維持のために閣僚を通常とは違う 意味で「見殺し」にしたことである。疑惑の行方については今後、緑資源機構の官製 談合事件がどのように展開するかにかかっているが、安倍首相の「品格」には大きな 疑問符がついてしまった。

松岡農相を辞めさせなかったのは、政権発足後わずか半年あまりで2人の閣僚が辞任 するというようなぶざまな姿に安倍さん自身が耐えられないと思ったからだろう。も ちろん辞任させれば野党から「任命権者」としての責任を追及されるだろうが、それ で参院選を乗り切れないほどのダメージを被ったとは思えない。「トカゲのシッポ切 り」と言われようが何しようが、腐ったリンゴはバスケットから出すのが原則である のに、安倍首相はかばった。そのかばった論理も、「本人が適法だと言っているから 適法だと思う」などとおよそ小学生でもわかる破綻した論理である。

しかし安倍首相の品格に「?」がつくのは、松岡農相をかばったことではない。松岡 農相のなんとか還元水の問題が、政治とカネの問題一般に及ぶにつれ、民主党小沢一 郎代表の資金管理団体が取得した不動産を攻撃するようになったことである。最近は 一段と攻勢を強めて、小沢代表がこの不動産にまつわる書類を「偽物ではないか」と 国会で追及させる始末(武部勤幹事長の息子とホリエモンの関係をあやふやなメール をもとに追及した民主党の永田元議員と大差ないほど程度の悪い質問である)。

まだある。今週行われた党首討論で、小沢代表が社会保険庁改革法案と時効停止の特 例法をもう少し時間をかけて審議したらどうかと質したとき、社保庁がとんでもない 役所であるのは要するに労組のせいだと言わんばかりの発言をした。しかもあろうこ とか、労組が強かった国鉄はひどかったが、それを自民党が民営化したらよくなった とも言ったのである。

労働者の権利を守る労働組合は、本来は政治的に改革派であった。なぜなら世の中が 労働者の権利を守るという意識が薄く、国家にせよ企業にせよ労働者を安く使おうと するのが普通だったからである。だから社会を前進させる大きな原動力の一つを労組 が担っていた。しかし労働者の権利が一般化してきてから労組はむしろ既得権益を守 る集団となっていった。パートや派遣をも含めて権利を守ろうとする労組がほとんど ないところに既得権益集団である本質がよく表れている(もちろんそうではない組合 も存在するが)。

しかし国鉄を民営化してJRにしたからすべてがよくなったわけではない。JR西日本の 昨年の事故を思い出せば十分だろう。民営化して経営者が収支を気にするようになっ たために、安全対策が遅れ、その結果、100人以上もの人が犠牲になる大事故を起こ したことははっきりしている。親方日の丸にも問題はあるが、民間会社になっても別 の問題が起こる。

まして社保庁は事業を行っているわけではなく、国鉄とはまったく違う。しかも社保 庁が集めた年金をグリーンピアなどというものに投資して、何百億ものカネを結果的 にドブに捨てたのは労組ではあるまい。厚生労働省という社保庁の監督官庁である役 所の幹部ではなかったか。

安倍さんは小沢さんとの党首討論でこうも言った。「年金番号を一本化したときの厚 生大臣は誰だったか。菅直人さんじゃないか」。これはもう子供の喧嘩だ。個人の責 任を問うのではなく、なぜこういった問題が起こったのか、それを修正し、今後起こ さないためにどうするのかという議論がまったくできなくなる。一国の総理がこの程 度の「討論」しかできないのなら、日本の将来は明るくない。この程度の総理に「美 しい国」とか「新しい憲法」とか言ってほしくないと思う。とりわけ憲法には、理念、 哲学が必要だ。品格に欠ける総理に、国の行方をあずけたらそれこそ「国家の品格」 が泣く。

(Copyrights 2007 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)


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