縮む日本
車が売れないということは知っていても、2006年度の新車登録台数(軽自動車を除く) が前年度比8.3%減の359万台と聞くと、改めてびっくりする。前年度比マイナス成長 になるのはこれで4年連続。1990年度が過去のピークだそうだが、その年には何と590 万台も売れた。ざっと40%近く減っている計算だ。トヨタ自動車が世界一になるとか いうニュースに浮かれている間に、足元がどんどん崩れているようだ。
なぜこんなに売れないのだろう。自動車業界では、販売の不振は基本的に景気のせい
だと考えてきたようだ。景気が原因ということになれば、これは循環要因であり構造
問題ではない。たしかに。いざなぎ景気を越えて戦後最長の拡大期といっても成長率
は微々たるものだ。それに労働分配率は景気拡大とは連動せずにむしろ下がっていた
から、車を買うような余裕は生まれにくかったかもしれない。去年ぐらいから、初任
給が上がるケースも散見されるし、パートや派遣が正社員化されるなどのニュースも
ある。労働者の所得が増えてくれば、自動車もまた売れるかもしれない。
今よりも自動車の販売台数が増えることはありうる。それでも過去のピークに迫る可
能性はほぼゼロに近いと言えるだろう。ピークよりも40%も減っているということは、
景気循環ではない構造的な要因があることを思わせる。そこですぐ考えつくのは人口
動態だ。いま30歳台前半になっている団塊ジュニアのところから、年齢階級別人口は
一貫して先細りだ。20歳から24歳が自動車を購入するエントリー層といわれ、この年
齢層が着実に減っていることが自動車販売に影響を与えているのだという説がある。
それが正しいかどうかわからないけれども、この自動車販売の減少は、人口が減ると
経済活動にマイナスの影響が生じることを象徴していると思う。一部には人口が減っ
ても豊かさを保てるという議論があるが、そうはいくまい。たとえ人口が半分になっ
ても江戸時代よりは多いのだから問題ないと言った大学教授がいたが、そういう社会
にどうやってアジャストするかという視点を欠いた暴論としか思えない。
労働人口が減ることで当然アウトプットは減る(もちろん生産性を向上させればいい
話だが、労働力の配置を転換するなどの調整が必要だから、言うほど簡単ではないだ
ろう)。もっと大きな問題は、自動車販売台数の減少が示すように購買力が減ること
だと思う。新聞で読んだ記憶があるが、団塊世代の大量退職の後、その分を定年延長
あるいは若年労働者で埋めても、結局、労働分配率は下がる。再雇用された団塊世代
が受け取る給料は、定年前の半分ぐらいになるというのが「常識」だからである。も
ちろん給料の安い若年労働力で置き換えた場合も同様だ。企業にとっては人件費負担
が減ることになっていいようにも思えるが、消費者全体として考えれば当然、可処分
所得が小さくなり、購買力が小さくなることを意味する。
おそらくこういった問題は自動車だけでなく、あらゆる製品に表れてくるのだと思う。
引退した団塊の世代が消費を増やせばいいという意見もあるが、もしお金があったと
しても自動車を2台買う家は少ないだろう。生活必需品を買う量を増やせるわけでも
ない(トイレットペーパーを今までの2倍買うことを想像してみれば、そういった議
論がナンセンスであることは明白だ。値段が2倍高いトイレットペーパーを買うこと
もしないだろう)。もちろんそれ以外の消費、たとえば旅行だとか外食だとかは増え
るかもしれないが、年金やら医療やら将来への不安がある限りは、団塊の世代も虎の
子の退職金をそうむやみに使わないはずだ(ちなみに、女性向けサイト、イーウーマ
ン(http://www.ewoman.co.jp/)で医療の将来に不安があるかどうかを尋ねたところ、
90%を越える人が「イエス」と答えている)。
人口減少が経済にどのような影響を与えるかを経済学的に解明したものは寡聞にして
知らないが、人口が増えている社会は発展しやすいことは直観的にも理解できる。人
口が増えるということは需要が増えることとほぼ同義であり、職が提供されれば購買
力もついてくる。購買力がつけば品物が売れて、企業は増産する。すなわち職がさら
に増える。これが上昇スパイラルだとすれば、下降スパイラルもあるだろう。人口が
減れば購買力が減り、企業は減産に走り、職が減る。それによって購買力がさらに下
がるのである。
日本経済が果たしてそういう悪循環に陥らないでいられるのか。その答えはわからな
いが、歴史上、人口が減りつつ発展した国はないとされている。人口が減っているの
は日本だけではないが、10年後、20年後の日本がまだ先進国として胸を張っていられ
るのか、確信はまったくない。
(Copyrights 2007 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)
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