政治家・民間人・官僚

小泉内閣発足以来、ただ1人ずっと閣僚を務めてきた竹中平蔵氏が、小泉内閣総辞職 と共に参議院議員も辞職すると発表した。これまでにも民間人から閣僚になった例は たくさんある。官僚出身ではない「純粋な」民間人は決して多くはないが、竹中さん が初めてというわけでもない。もともと憲法で、内閣総理大臣が大臣を選任するとき 「過半数は国会議員の中から選ばれなければならない」と規定されているだけだから、 総理大臣がその気になれば、民間の有能な人をいくらでも登用できるはずだ。

しかし現実にはそうは行かない。大臣になることは政治家にとっては大きな勲章(実 際の勲章も大臣になるとならないではずいぶん違う)。当然のことながら経歴に大臣 と書き込めれば、次の選挙でも有利になるから、大臣になりたがる人の長蛇の列がで きる。そして各派閥が候補者を整理し、総理に売り込むというのが今までの姿だった。 派閥間のバランスやら何やらが調整され、場合によっては派閥間の貸し借りができる。 安倍さんは「派閥の推薦はいっさい受け付けない」と公言しているが、それを押し通 せるかどうかわからない。

ずっと閣僚を務めた竹中さんへの風当たりは相当に強かったはずだ。2004年7月の参 議院選挙に立候補したのも、「政治家でもない者が政策をおもちゃにしている」とい う反発が党内にあったからだと聞く。その意味では、竹中さんが参議院議員も辞職す るというのは理解できる選択だ。もともと政治家になりたいわけではなく、小泉内閣 で仕事をするために議員になったのだから、内閣総辞職と同時に議員を辞めるのは当 然である。それに小泉首相という後ろ盾がなくなれば、5年半も大臣の席に座ってい た竹中さんにとって、議席はむしろ針のむしろだろう。

ただ議員にせよ、大臣にせよ、重要なのは「説明責任」である。小泉さんのワンフレー ズポリティックスが説明責任を果たしているとは思わない。しかし大臣答弁などを聞 いていると、竹中さんの答弁は他の政治家よりはかなりましだと思う。だいたい大臣 答弁でいちばんばかばかしいのは、官僚が書いた答弁書を棒読みする大臣である。官 僚は、責任を追及されないように答弁そのものがきわめて「防衛的」になるのが普通 であり当然でもある。それを読み上げる政治家では、国民に向かって説明責任が果た せるはずがない。

そして政治のあり方を変えるという場合、この政治家と官僚の関係をどう変えていく かということが大問題だと思う。日本の場合、官僚の力が強い。政策をつくるにして も、継続的によくフォローしているのは官僚だし、立案する能力もある。政治家は大 臣や副大臣になって官僚の上に立つが、短ければ数カ月、長くても数年でいなくなる 政治家が本質的な理解をすることはむずかしい。すなわち政治家が円滑に自分の任期 をまっとうしようとすれば、官僚の言うことを聞いて、大臣という役を演じることに なってしまうことが多い。

官僚の問題点はいくつかある。まず、政策について説明責任がないということである。 もちろん国民の代表者である議員に説明はするが、それは説明責任を果たすというよ りも「根回し」。次に、官僚は選ばれているわけではないので、国民のほうを向いて 仕事をするよりも、自分たちの組織のために仕事をしがちである。ある官僚が言った ことがある。「たとえ間違っているとわかっている政策でも、先輩の顔を思い浮かべ ると、それを批判するのはむずかしい」

その意味で、官僚のいちばんの弱点は「変革に弱い」ということだろうと思う。その 代わり「継続性」には強い。変革をスローガンに掲げた小泉内閣だからこそ、一部と はいえ官僚から政治家へ政策立案のリーダーシップを取り戻すことができたのかもし れない。そして官僚の理論武装に立ち向かうために「野心的な」学者を登用するとい うことだったのだろう。だいたい並の政治家なら官僚の理屈に対抗できる人はそう多 くはないはずだ。

その意味では竹中さんの議員辞職は、間接的に安倍政権の性格を語っているのかもし れない。つまり竹中さんは議員として残っても、安倍さんはどちらかと言えば、官僚 主導型の政治に戻り、自分の居場所はないと感じているのではないか。安倍さんは小 泉改革の継承者と自称しているが、小泉改革をどうさらに深めるのかという話はあん まり聞かない。憲法改正やら教育基本法の改正は、いわゆる小泉改革とはあまり関係 がない。安倍さんの党人事、閣僚人事を見れば、安倍政権の性格がもっとはっきり見 えるだろう。

(Copyrights 2006 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)

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