ロシアの逆コース

北方領土近海で操業していた日本の漁船がロシア警備艇に追跡・拿捕された。その際、 警告射撃を受けて不幸にも漁船の乗組員が死亡した。これでもともと高くはないロシ アに対する好感度がさらに下がることになると思う。

その漁船は許可されていない場所で操業していたとロシア側はいう。そして警備艇に 発見され、停船を命じられたのに逃げた。よくある話だ。拿捕されれば何日も漁がで きなくなるが、海に引かれた線のあちら側に逃げ込めばそれですむ。韓国や北朝鮮の 漁船と、日本の巡視艇も同じようなことをやっている。しかし明らかに漁船とわかっ ている船に対し、警告射撃をするのは「よくある話」ではあるまい。少なくとも日本 の海上保安庁はめったに警告射撃したりはしない(実際、そのために北朝鮮の偽装漁 船を逃がしてしまったこともあった)。

この一事をもって、ロシアの有り様を見ることは適当ではないと思う。しかしかつて アメリカと世界の覇権を争っていたソ連は、何かにつけて日本に対し強硬な姿勢をとっ た。当時はソ連が日本の仮想敵国であり、北海道の自衛隊はソ連の侵攻に備える装備 を与えられていた。日本にとってソ連は「脅威」であり、ソ連にとって日本は東の邪 魔な存在だったのである。

そうした日ソ関係が変えたのが1991年のソ連崩壊である。連邦が崩壊して版図が小さ くなったロシアは、国力の衰えを甘受せざるをえなかった。米ソという世界を二分す る冷戦体制が崩れて、アメリカの一極支配の時代となった。おそらく1998年にルーブ ルが暴落し、対外債務を一部繰り延べせざるをえなかったころが、最悪期だっただろ うと思う。

このころのロシアは、社会主義から民主主義への移行期と考えられていた。経済も市 場主義経済への傾斜を強めていると見られていた。国有企業は続々と民営化され、そ の過程で大金持ちになった人々も生まれた。先進7カ国サミットにロシアが正式参加 するようになったのは1998年、ここからG8と呼ばれるようになったが、これはロシア が民主主義化のレールの上を走っているという前提に基づいていた。

そのロシアはこのところ急速に経済力も政治力も強めている。外貨準備高も2000億ド ルに迫ろうとしており(中国に次いで世界第2位だ)、債務もなくなってルーブル危 機から完全に立ち直った。その原動力となっているのは原油価格の値上がりである。 ロシアは天然ガスで世界第一位、原油で世界第二位という大エネルギー産出国。そし て天然ガスはガスプロム、石油はロスネフチという国営企業が事実上独占している。 つまりエネルギー産業というロシアの最重要産業で、自由化、市場化という流れとは 逆行しているのである。<
br/> 経済だけではない。2000年に就任したプーチン大統領は、地方の知事を直接選挙から 中央政府による任命制に変えた。議会の野党はいまや有名無実化しているという。メ ディアは度重なる弾圧によって、プーチンを批判することができなくなっている。そ して、ガスプロムやロスチネフといった企業には、プーチンの側近がトップに入り込 んでいる。

問題は、こうしたプーチンの強権体質がこれからも続くのかどうかというところにあ る。ロシアの大統領は任期4年、2期まで再選可能だ。これで行くと来年には選挙が行 われることになる。プーチン大統領が2期という制限を変えようと思ったら、憲法を 改正しなければならない。この動きがいつ出てくるのか、それともプーチンが2期で 退くのか、ここがロシアの民主主義の将来を占うきわめて大きな分岐点となるだろう。

そしてそのロシアは、中国との関係を強化している。2001年に上海協力機構を設立。 中国、ロシアと中央アジア4カ国(カザフスタン、キルギスタン、ウズベキスタン、 タジキスタン)の多国間協力を実現した。この上海協力機構は、単に経済協力だけで なく、昨年には中ロで合同軍事演習を行った。来年にも再び中ロ合同軍事演習を行う ことになっており、東アジアにおいて、アメリカの軍事的な優位を脅かす存在になり つつある。

プーチン大統領による強権政治は、国内の支持率が高い。民主主義化によって、ロシ アが混乱し、生活水準が下がったのをプーチンが救ったという面があるからだ。そし て今やプーチン大統領は、資源を武器にロシアを再びアメリカと対抗できるようなスー パーパワーに復活させようとしているように見える。そのロシアと中国が緊密に手を 結んだとき、東アジアのパワーバランスが劇的に変化するのは避けられない。果たし て日本はその激変に対する備えはできているのだろうか。

(Copyrights 2006 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)

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