北朝鮮非難、各国の思惑

国連安全保障理事会は、国際社会の懸念の表明にもかかわらずミサイル発射実験を強 行した北朝鮮に対し、全会一致で非難決議を採択した。当初、日本やアメリカが目指 した制裁決議にはならなかった。中国などがめざした議長声明という「弱い」表明に もならなかった。最終的には、両者が歩み寄った形で、北朝鮮に対する非難決議を安 保理の全会一致で採択した。この外交の成果を、中国が勝ったとか、日本が勝ったと か、アメリカが「裏切った」とかいうことにはあまり意味がない。しょせん、外交で ある以上、地球上のさまざまな問題との絡みもあり、各国の思惑もある。

「国際社会」と書いたが、個々の国だけでなくそこに国際社会というコミュニティが 存在し、それを守るために個々の構成員である諸国は努力するという考え方が世界に 浸透しているとは言い切れない。実際、アメリカでもどちらかと言えば、ブッシュ政 権はそうしたコミュニティというより国際連合は個々の国の集まりであり、政治的駆 け引きの場であるとする「現実論者」に近い(それに対してリベラル派である民主党 には、国際社会という国を超えるコミュニティがあるとする理想論者がいる)。

この非難決議もさまざまな妥協の産物である。とりわけアメリカの念頭にあったのは、 イランの核開発問題だったはずだ。イランの制裁に関しても、中国とロシアは慎重派 である。ここで中国をあまり追い込んで、たとえば拒否権を行使させてしまえば、イ ラン問題が煮詰まってきたときにも中国との対立は避けられないだろう。それにイン ドとの民生用原子力協力がある。アメリカは、NPT(核不拡散条約)に加盟せず、核 兵器を保有しているインドに民生用原子力の技術協力などを行うことにしている。こ の問題では、国内の法改正が進んでいるが、さらに原子力供給国グループ(世界で45 カ国が加盟、中国もロシアもメンバー)の承認も取り付けなければならない。そして 膠着状態に陥っている6者協議のことを考えれば、中国のメンツをそう簡単につぶす わけにはいかない。

一方、中国にしてみれば、北朝鮮をめぐる6カ国協議でなかなか指導力を発揮できな いのが頭痛のタネ。北朝鮮の唯一とも言える友好国であり、北朝鮮に対して何かと援 助している国でもあるのに、その中国の要請も北朝鮮側は受け入れない。現に、ミサ イル発射実験を受けて中国は武大偉外務次官を平壌へ派遣したが、金正日とは会えな かったという。このままで行くと、東アジアでリーダーシップを取るという中国の目 論見は大幅に遅れることになりかねない。そしてなおかつ中国にとっては、これから の経済発展のためにどうしてもエネルギーを確保しなければならない。そのためには、 エネルギー大国であるロシアとうまく付き合っていく必要がある。上海協力機構(中 国、ロシアと中央アジア4カ国)の意味合いもますます重要になるだろう。ロシアと の関係は国境紛争も解決して現段階ではうまく行っているが、かといってアメリカや 日本との関係がこじれれば、肝心の経済発展が遅れる恐れがある。

またロシアにとっては、「民主化直後」の西側の援助あるいは西側資本の重要性はや や薄れつつある。すでに原油価格の高騰によって、ロシアは対外債務も返済し、1998 年のルーブル危機から完全に立ち直った。ロシアは再び大国になり、正式メンバーで はないけれどもサミットのホスト国になった。経済がよくなってきたおかげで、さま ざまな民主化に逆行する政策にもかかわらず、プーチンの支持率は70%と高い。これ でたとえばウクライナのような親西欧政権が倒れて親ロシア政権になってくれれば、 ロシアは再び西欧との間に緩衝地帯をもつことができるようになる。そのためには、 エネルギーという強大な武器を上手に使うことになるだろう(石油も天然ガスも国営 会社の独占みたいなものだ)。そして間違いなくロシアは民主主義から離れていく。 すでにプーチンはメディアを押さえ、エネルギーを押さえ、地方の知事や議会も押さ えている。形はいくらか民主主義であるとしても、実態はプーチン独裁国家。2008年 の大統領選に向けて、プーチン大統領が憲法の再選禁止規定を変えようとするかどう か、そこがロシアの注目点だ。

そしてこういった状況の中で、中国やロシアにとって望ましくないシナリオのひとつ は、日本がミサイル防衛を急ぐこと、そして限定的とはいえ敵地攻撃能力を持つこと であるはずだ。この両者とも東アジアの戦力バランスを崩すことになるからである。 要するに中国もロシアも、そしてアメリカも、今のところは東アジアでのパワーバラ ンスを崩すようなことは起こってほしくない。その意味では、日本が敵地攻撃能力を 持とうとすれば、中国やロシアよりもまずアメリカから横やりが入るはずだ。もちろ ん巡航ミサイルを日本に売却するとはとても思えない。そうした意味では、額賀防衛 庁長官の「敵地攻撃能力を検討」という発言は、かなり絶妙のタイミングだったのか もしれない。

(Copyrights 2006 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)

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