ミサイルが飛んでくる

先週7月5日、北朝鮮は周辺諸国の自重を求める声を無視して7発のミサイルを発射し た。そのうち1機は射程が6,000〜10,000キロ(推定)と長く、アメリカ本土の一部ま で届くとされるテポドン2である。このテポドンの発射準備はかなり早い段階で察知 されていた。そしてアメリカや日本は、もし発射するようなことがあれば重大な結果 を招くと警告していたが、金正日はそれを無視して発射実験を行ったのである。

北朝鮮の狙いははっきりしていると思う。経済の状況がよくないこともあって、周辺 各国による援助が欲しい。金日正体制に手を出さないというアメリカの保証が欲しい (北朝鮮に侵攻する能力があるのはアメリカだけだ)。そしてできれば、核開発の権 利も認めて欲しいはずだ。なぜなら核開発を放棄してしまえば、そのとたんに北朝鮮 は要求を通すための手だてを失うからである。インドがNPT(核不拡散条約)に未加 盟で、かつ核兵器も開発したのに、アメリカは民生用原子炉について技術協力、核燃 料供給などをするつもりでいるのも、北朝鮮にとっては「支援材料」と映ったはずだ。

しかし今、北朝鮮の核開発問題を協議している6カ国協議(参加国は北朝鮮のほか、 アメリカ、中国、韓国、日本、ロシア)では、核開発を放棄すれば民生用の原子力発 電所を建設する(現在、中断)という話になっていた。アメリカは、NPT(核不拡散 条約)に加盟しているのに、それに違反して核開発を行ってきた北朝鮮に再び核開発 を認める気はさらさらない。

だから北朝鮮が再三にわたってアメリカとの2国間交渉を要求しているにもかかわら ず、アメリカは頑として譲ろうとしない。過去に何度も約束を反故にされてきたとい う経験があるため、ここで譲歩しても同じことを繰り返すだけだという警戒感が強い からである(ブッシュ政権の前のクリントン民主党政権時代に融和的な政策を取った こともあり、オルブライト国務長官などが訪朝したが、結果的に金正日に利用された だけだという反省がある)。

さて今回のミサイル発射で日本はどうだろうか。1998年8月にもテポドンが日本の上 空を飛んだ。そのときに日本は一種のヒステリー状態になって、北朝鮮に対する反感 が一気に高まった。その年の国会では偵察衛星の打ち上げが大した論争もなしにすぐ に決まった。今回発射されたテポドン2は40秒しか飛行せずに落下したため「発射実 験は失敗」とされている。そのためか、日本全体がパニックになったようには見えな い。

しかし問題は1998年当時と何も変わっていない。近隣に話の通じない国があって、そ の国が核兵器を持っていると宣言し、核兵器を運搬するためのミサイルがあることも 確認できている。その国に対していかなる有効な対抗手段をもつことが可能であるか という問題である。これまで日本人は安全保障についてはほとんど考えてこなかった。 考えずともアメリカの核の傘の下にいればよかったからである。実際、60年以上にわ たって平和と反映を享受してきた。

金日正はその日本人の「平和幻想」を打ち破ったのである。小泉政権がこの問題に関 して、アメリカとの連携を強調したのは論理的に当然だ。平和を唱えることで平和が 手に入らないのなら、武力を持っている国と連携しなければならず、ロシアや中国が 同盟国ではない以上、頼るべきはアメリカしかない。ただそれでも北朝鮮から飛んで くるミサイルを防ぐことはできない。10分そこそこで東京まで届くミサイルをどうやっ て迎撃せよというのか。実際に、今回でも最初のミサイル発射から首相官邸に集合が かかるまで20分だったという。本物のミサイルならすでに着弾している。

こういった議論を進めていくと、核ミサイルから国を守るためには、報復できる能力 を備えることだという「相互確実破壊(MAD)」の論理になる。それが冷戦時代の米 ソ核競争であった。実際、もう10年以上前のことになるが、ある防衛庁の幹部は「究 極の抑止力としての核武装」も検討する必要があると私に語ったことがある(実際に 防衛研究所では、核武装について私的な研究が行われ、現時点では核武装はコストと 効果が見合わないという結論を出した)。

北朝鮮のミサイルは、こうした意味において日本がいかに無防備であるかを日本人に 確認させる役割を果たした。日本が核武装すべきだとは思わない。日本が核武装する と、東アジアのバランスが大きく崩れるだけでなく、同盟国であるアメリカをも警戒 させることにつながるからである。しかしそれならばどうするべきかという問題を、 われわれは真剣に考える時期に来ていると思う。なぜならそこを考えておかないと、 不意打ちを食ったときに、日本が「暴発」しかねないからである。いったん暴発しは じめたら、それを止めるのは容易ではない。われわれは70年以上も前にそれを経験し たことがある。

(Copyrights 2006 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)

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