少子高齢化と移民

日本の少子高齢化が急速に進んでいることが国勢調査の速報で明らかになった。昨
年10月1日時点で、65歳以上の高齢者は2682万人、総人口に占める割合は21%になっ
たという。イタリアも高齢者人口が多い国(20%)だが、それを抜いて世界一だそう
だ。それだけではない。15歳未満の子供人口は1740万人となり、5年前に比べて107万
人も減った。総人口に占める割合は13.6%である。子供人口がいちばん多かったの
は1955年の3012万人だが、それに比べると約6割しか子供がいないということになる。

年金や医療など、若い世代が上の世代を支える制度は、今のままで行けば破綻するこ
とが目に見えている。制度を手直しするといっても、それは給付を減らすか、負担を
増やすか、あるいはその両方か。足りない分を税金で補填するという考え方もできな
くはないが、世界でも最悪の公的債務を抱えている国としては非現実的な案だろうと
思う。



少子高齢化に何とか歯止めをかけようと、政府もようやく本腰を入れ始めたように見
える。少子化・男女共同参画担当の特命大臣を置いたのもその一つの表れだろう(もっ
とも残念なことに、猪口大臣が精力的に、そして効果的に動いているようには見えな
いのだが)。最近、しきりに政府が定年延長を口にする。川崎厚生労働大臣は、65歳
まで延長したら次は70歳にするという。要するに、自分で稼いで自分の面倒は自分で
見ろという政策である。



少子化を食い止めるのは容易なことではない。働く女性が子供を産み、育てやすい環
境を整えるとしても、その効果が現れるには時間がかかる。一方で、団塊の世代の
「引退」が始まる来年ぐらいから、生産する人口も急激に減ってくるはずだ。生産人
口が減れば、年金などを負担してくれる人口が減る。ベビーブーム・ジュニア世代が
子供を産んでいるからだろうか、出生数が増えているそうだが、彼らが生産人口に達
するには15年もかかる。



そういう問題を手っ取り早くするには、移民を受け入れるのが一番だと思うが、移民
受け入れという議論はなかなか表立って進まない。それどころか、人口減も結構じゃ
ないかという乱暴な議論をする大学の先生もいる。日本はもともと過密なのだから、
ゆったり住めばいいというのである。たしかに現在の人口構成がそのまま縮小するの
だったら、そういった議論もできなくはないだろう。しかし、人口が「先細り」にな
るということは、その分、支えてくれる人が減るということだ。年金制度や医療制度
が立ちゆかなくなれば、豊かな生活などあるはずもなかろう。



もし日本がアジアからの移民を受け入れ、彼らが年金や医療制度に入ってきてくれれ
ば(彼らのほとんどは生産人口である)、こういった問題はかなり緩和されるはずで
ある。もちろん移民の受け入れにはさまざまなリスクも伴う。犯罪が増加するのも避
けられまい。日本のような均質的な社会に異なる人々が入ってくれば、何かと摩擦も
生まれるだろう。アパートなどの貸し主で「外国人お断り」という人も少なくないと
聞く(移民であるから正確には外国人ではないが、日本語でコミュニケーションがで
きないという意味では大家さんにとって外国人と変わらないだろう)。



実際、ドイツやフランス、そして移民の国であるアメリカですら、移民を制限したり、
不法移民を徹底的に取り締まるという方向を打ち出している。職場を奪うという批判
や、賃金が上がらないのは移民が安く働くからだという非難が浴びせられ、極右団体
などが移民を攻撃することで票を集めてもいる。移民を受け入れてきた国で、矛盾が
蓄積し、それが爆発した形である。



そういう現実を見ると、移民受け入れを躊躇する日本人も多いだろうと思う。しかし
今のまま行けば、日本がやがて衰退する老国になり、さまざまな社会保障政策が破綻
することも明らかだ。そのときの社会不安は、移民受け入れに伴うリスクをはるかに
上回るものだと思う。



もともと日本という国は、さまざまな人種が寄り集まっている。大きくは北から流れ
てきた人々と朝鮮半島を経由してきた人々だし、南の海からきた人々もいる。純粋日
本民族などというのは幻想なのだから、移民受け入れにそう神経質になることもある
まい。その決断をしなければならない時はいよいよ迫りつつあるのかもしれない。



(Copyrights 2006 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)


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