原発をどう考える
20年前の4月26日、ウクライナのチェルノブイリ原子力発電所の4号機が爆発炎上した。 そして従業員や鎮火にあたった消防士など31人が犠牲になった。さらに飛散した放射 性物質によって、甲状腺ガンなどで死亡するなどの犠牲者は9300人とされている(た だしグリーンピースは10万人を越えていると主張する)。実際に事故による影響でど れだけの犠牲者が出ているかはわからないが、今でも半径30キロ以内の地域は立ち入 り禁止になっていることは事実だし、広島や長崎の例を見ても今後も犠牲者が出つづ けるのは確かである。
チェルノブイリより前、1979年3月28日にアメリカのスリーマイル島原子力発電所で
事故が起きた。人的被害こそ軽微だったが、後の調査で事故が見かけより極めて深刻
だったことが明らかになった。このスリーマイル島の事故を予見したかのような映画
がある。ジェーン・フォンダ主演の『チャイナ・シンドローム』だ。題名の由来は、
アメリカで原子炉の炉心が溶融したら、その熱で地中に穴が開き、アメリカの裏側に
ある中国にまで抜けるという冗談ではあるが、原子炉の暴走は決して冗談ではない。
真相は明らかではないが、原子炉の暴走で沈没した原潜もあると言われている。
そしてわが日本。今や世界で3番目の原子力大国だ。1位はアメリカ、2位はフランス
だ。それだけではない。日本は原子力発電所の新設にもきわめて熱心な国である。昨
年末現在でフランスの原発出力が6600万キロワット、日本が4800万キロワットだが、
現在、建設中あるいは計画中のものが稼働すると、日本の原発出力はフランスとほと
んど肩を並べる。日本では建設中あるいは計画中のものが13基あるのに、フランスで
は1基しかないからだ。
13基という数は、世界でも群を抜いて多い。経済の高成長が続き電源開発に躍起となっ
ている中国やインドでも建設中・計画中の原発はそれぞれ10基、8基である。いつの
間に日本はこんな原発大国になったのだろうかと思う。
日本での大きな事故は、JOCウラン転換工場で作業員が規定を越える量のウラン溶液
を沈殿槽に入れたために核分裂が急速に進行して臨界になったものがある。事故レベ
ルとしては、チェルノブイリのレベル7、スリーマイル島のレベル5に次ぐ、レベル4
だ。この事故では作業員2人が犠牲になったが、周辺住民の健康被害は確認されてい
ない。
電力会社が原発の設置に熱心なのはコストが安いからである。施設を40年間運転する
という前提で計算をすると、水力発電や火力発電のコストの約半分だという。それに、
核燃料サイクルがうまく行けば、燃料供給に関する心配もかなりなくなるし、二酸化
炭素の排出量も火力発電に比べると圧倒的に少ない。
しかし原子力の最大の問題は、人類はいまだに原子力を完全にコントロールできてい
るわけではないというところにある。もちろん原発の安全装置の信頼性は非常に高い。
もし人間がミスをしても(スリーマイル島もチェルノブイリも人間のミスが直接のきっ
かけになった)、原子炉が暴走することのないようにフェイルセーフの思想が徹底し
ている。それでも事故は起きるが、深刻なものはそれほど多くないのも事実である。
ただ「核のゴミ」は別だ。使用済み燃料や燃料の再処理過程から出てくる廃棄物、さ
らにこれから出てくるであろう「解体された原発」のゴミを処分するところはいまだ
に決まっていない。世界的にもこのいわゆる「高レベル放射性廃棄物の最終処分場」
は大問題となっている(地層処分をする最終処分地が決まっている国はフィンランド
とアメリカしかない)。つまりわれわれは発電所から出るゴミの処分地が決まらない
ままに、エネルギーを使い続けているわけだ。このまま行くと、現在の原発から出る
使用済み核燃料が満杯になって、発電を続けられなくなるという。
自分自身が出すゴミをどう処分していいかわからないままに便利さばかりを追い求め
るのは人間の性なのかもしれないが、それではどう解決すればいいのか、妙案も浮か
ばない。エネルギーを節約すれば、どこかで直面する限界を先延ばしにすることには
なるだろうが、根本解決にはほど遠い。生活水準を落とせば大きな節約にはなるが、
実際に実行できる人は多くはあるまい。かくいう私も、煌々と明かりがついた部屋で
コンピュータのキーボードをたたいている。エネルギー問題は本当にやっかいだと思
う。本音と建前というか、総論と各論があまりにも違いすぎるからだ。東京に原発を
つくるということになったら、もう少しわれわれも真剣に考えるかもしれないのだが。
(Copyrights 2006 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)
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