民主党の稚拙で危険な論理

「堀江メール」で日本を大騒ぎさせた民主党の永田寿康議員。逃げ込んでいた病院をようやく退院して今日午後、謝罪会見を開いた。そこでは、メールの信憑性を立証することができず迷惑をかけたと謝ったものの、メールそのものが偽物であるとは言わなかった(民主党としては偽物であると断定せざるをえないと明言した)。永田氏本人はまだ未練がある様子がありありとしていた。というより、同僚議員によれば、メールが本物だとまだ信じているそうだ。

しかしメールの真贋論争よりも、今回の事件では、攻める民主党がおかしな論理を展開したことのほうがよほど問題だと思う。「メールに書かれているような事実(堀江被告から自民党武部幹事長の二男にお金が振り込まれた)がないのなら、国政調査権を発動して白黒をつけるべきだ」という議論のふっかけ方である。この論理がとんでもない「言いがかりの論理」であることを、民主党は気づかなかったのだろうか。

しかも永田議員だけではない。この論理で声高に小泉首相を追及したのは民主党の前原誠二代表である。「口座に関する情報も持っているが、国政調査権を発動するならば、その情報を出す」としきりに主張した。「やましいところがなければ発動に応じてもいいはず」という裏側には「やましいところがあるから、われわれの要求に応じられないのだろう」という論理がある。

この論理は、民主主義を揺るがしかねない危険な論理なのである。民主主義の根幹は基本的人権にある。基本的人権は、権力が侵害してはならないものとして、歴史のなかで営々と築き上げられてきたものだ。反対派を弾圧するために、時の権力が容疑をでっち上げて逮捕監禁してきた例など、いくらでも挙げられる。しかし人類の叡智は、そういった権力を法によって抑制し、人権を守る社会を生み出してきた。民主主義社会の市民は、正当な理由なくして逮捕されたり、強制的に捜索されたりすることはない(ことになっている)。

前原代表が国会で振りかざした論理は、歴史の針を逆戻りさせるものだと言ってもいい。すなわち基本的人権をないがしろにする考え方である。疑惑追及の矛先が私人か公人かの問題ではない。疑惑の根拠が薄弱であるのに「潔白であることを示せ」というのは、刑事ドラマの「叩けばホコリが出るから叩け」という言い方とまったく同じだ。ホコリが出るかどうかは関係ない。叩くのには理由が必要である(よしんば叩いてホコリが出ても、叩いたときに正当な根拠がなければ、叩いたこと自体が違法となり、そのホコリが原因で起訴されることはない)。

愕然とするのは、この論理が民主党というリベラリズムを標榜する政党の党首が国会で堂々と述べた論理であるということだ。小泉首相も、靖国参拝問題では、戦争を鼓舞した神社で「不戦を誓う」というおかしな論理を展開する。靖国の歴史を無視した論理だと思うが、ここには少なくとも論争の余地がある。しかし民主党が今回のメール事件で展開した言いがかりの論理は、はるかにひどい。基本的人権により敏感なはずの政党とは思えない没論理的論理だ。

それなのに、前原代表は自分自身を処分することはしなかった。永田議員は党員資格6カ月停止、野田国対委員長は辞任、鳩山幹事長は厳重注意(鳩山氏本人はある時点で辞任すると示唆している)という処分を受けたことを考えると、前原代表について何らの処分もないというのは妙な話だと思う。党首討論の前日、「明日を楽しみにしていてください」と大見得を切り、そして当日は何らの新しい根拠を示すことなく、「潔白を証明するために国政調査権を発動せよ」と迫ったのは前原代表だ。

前原代表が辞任すると適当な後任がいないという民主党のお家の事情は、それはしょせん内輪の話であって、有権者とは何の関係もない。民主党が今回の謝罪会見は国民に説明するためのものと言っているのに、われわれの側から見ると今ひとつ腑に落ちないのは、この処分のあり方が原因だと思う。

永田議員がどう見ても怪しげな話に乗ってしまったこと、野田国対委員長が証拠を検証することもなく永田氏の説明を聞いてゴーサインを出してしまったこと、民主党が責められるべき点は多々ある。しかし前原代表が国会で展開した稚拙で危険な論理は、それらにも増して罪が重い。

少なくともこれまで民主党に対して抱いていた淡い期待は、これで見事に吹っ飛んだ。この信頼を回復するのは容易なことではない。そして前原代表がその任に適さないのは言うまでもないことである。

(Copyrights 2006 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)

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