郷に入れば郷に従えと言いますが

「どこの国でもその国なりの法律があり、外国人や外国企業はその法律を守るのが当
然である」



然り、然り。一般論としてこの主張はまったく正当である。だからこそ米軍兵士が日
本国内で罪を犯したときに、起訴されるまでは基地内に収容されるという現在の日米
地位協定に国民が反発する。1957年に起きたジラード事件では、日本の農婦を射殺し
た米兵を形の上だけで日本側が裁判したものの、結局は執行猶予がつき、米兵はアメ
リカへ帰国した。このような「不平等」は枚挙に暇がないほどあった。


確かに「その国なりの法律」は尊重されねばならない。しかし人間の基本的な権利に
関わる場合はそうも言っておれない。そしていま、中国に進出したヤフーやグーグル、
マイクロソフト、AOLといった検索サイトが当局の検閲を受け入れたとして問題になっ
ている。とりわけ中国に対して強硬姿勢を取っている米連邦議会は、この件に関して
公聴会を開き、4社を厳しく批判した。



確かに「その国なりの法律」は尊重されねばならない。しかし人間の基本的な権利に
関わる場合はそうも言っておれない。そしていま、中国に進出したヤフーやグーグル、
マイクロソフト、AOLといった検索サイトが当局の検閲を受け入れたとして問題になっ
ている。とりわけ中国に対して強硬姿勢を取っている米連邦議会は、この件に関して
公聴会を開き、4社を厳しく批判した。



たとえばグーグルは、中国政府が好ましくないと考えるコンテンツを検索結果から除
外することに同意している。アメリカに本拠を置く中国の人権擁護団体ヒューマン・
ライツ・イン・チャイナ(HRIC)が、中国版とアメリカ版のグーグルの検索結果を比
較した報告書を公表した。



それによると、例えば「六四天安門事件」を検索すると、アメリカと台湾のグーグル
では1989年の天安門事件について解説したサイトが出てくる。しかし、中国版では事
件について直接記したサイトは表示されなかったという。中国政府がカルト宗教集団
として弾圧する「法輪功」を検索すると、中国版では法輪功批判のサイトが表示され
るだけで、法輪功そのもののサイトは表示されないともいう。



このような状況を受けて、議会では4社に対する批判を強めるだけでなく、中国に対
する警戒心を強めている。ここに対中貿易赤字問題が絡むから、なお中国政府も神経
質にならざるをえない。こうした中で中国政府は、冒頭のように発言し、アメリカ側
の動きを牽制した。



しかしこの争いは、どう見ても中国側に分はない。言論の自由は、危ういところがあ
るが、先進国で基本的には守られているもの。そしてそれは民主主義社会の基本でも
ある。もちろん中国は、政治体制としては社会主義であり、実態的には中国共産党の
一党独裁だ。それだけに、反体制的な言動には国内のものでも国外のものでも神経質
である。中国に進出しようとする外国のメディアは、それこそできるだけ「地雷」を
踏まないようにしている。ただグーグルやヤフーなどは報道機関ではない。そういっ
た企業が中国政府から圧力をかけられたら、ひとたまりもあるまい。検索結果を制限
するだけでなく、その検索サイトに蓄積された個人情報なども渡しかねない。



同時に、これは中国だけの問題ではなさそうである。われわれが日常的に何の意識も
することなく使っている検索サイト。そこにはおそらく膨大な個人情報があるはずだ。
そして何を検索しているかという情報も蓄積されているだろう。核爆弾や化学兵器に
ついてしょっちゅう検索していればテロリストの疑いをかけられ、それこそネット上
で逆探知されることになるのかもしれない(というより、初めから自分のパソコンが
バレバレになっていると言ったほうがいいのだろうか)。



そして日本のこれらの検索サイトが、当局に資料の提出を求められたとき、果たして
抵抗できるのだろうか(アメリカではグーグルが政府の要求を断ったそうだ)。報道
機関ならばまだ抵抗した経験もあるし、報道機関であるという自負もあるだろうが、
検索サイトではそうもいかないかもしれない。



中国政府のやり方には嫌悪感を覚えるものの、日頃使っている検索サイトが本当に大
丈夫なのかと考えると、ちょっと考え込んでしまう。



(Copyrights 2006 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)


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