中国の驚異(脅威)的発展
ちょっと恐ろしくなるような記事を読んだ。2005年の中国での自動車販売台数が592 万台となり、日本を抜いて世界第2位となったという。「この調子で行けば」という 予測はあちこちで目にして、それが実現した試しはない(古くは人口爆発説もそうだっ た。あの「予言」が当たっていれば、いまごろ地球は飢えた人間であふれていたはず だ)が、それでも、中国がこの調子で自動車を保有する人が増えれば、日本を上回る 自動車大国になるのもそう先の話ではない。
日本の自動車保有台数は約7800万台。中国はまだ2400万台ぐらいだろう。人口が日本
の10倍であるから、やがては数億台という車が中国全土を走り回ることになる。そし
てそのときには中国が消費するエネルギーは膨大な量に達するだろう。2000年時点で
中国が消費するエネルギーはアメリカの約半分だった。人口で5倍だから、一人あた
りではまだアメリカの10分の1ということになる。もし車が大量に保有され、また冷
暖房やら何やらで中国がアメリカ並みにエネルギーを消費することになったら、乱暴
な計算をすれば約10倍のエネルギーが消費される。増える分のほとんどは輸入原油と
原子力で賄われるはずだ。
この一事からしても、原油価格の高騰は避けられないと思う。もちろん相場が上がれ
ば、新しい油田の開発も進むから量的にはあまり心配ないかもしれないが、価格が傾
向的に下がることはあるまい。もちろんこれからの技術進歩もあるだろうから、効率
の悪いアメリカ並みのエネルギー多消費国家になるとはかぎらない(ただ今のところ
は中国のエネルギー効率はアメリカよりも悪いとされている)。ただ最近の中国の外
交が、エネルギー確保を軸にしているのを見ると、中国政府もこの問題を相当真剣に
考えていることが窺われる。
中国が膨大なエネルギーを輸入する国になるとすれば、日本とさまざまなところでバッ
ティングするのは当然だ。中東はもとより、中央アジア、シベリア、東シナ海などな
ど、日本と中国が何かと対立する場面はこれからさらに増えてくる。対立軸がエネル
ギー問題だからといって、必ずしも第二次大戦を思い起こす必要はあるまい。国際紛
争の解決手段としての戦争がいかに高い代償を払わなければならないか、イラク戦争
を見てもわかることだ。日本も中国もそれはよく承知しているはずだ。
かといって、中国がエネルギー需要を減速させることはほぼ不可能だと思う。なぜな
ら沿海部と内陸部の大きな経済格差を抱えている以上、西部開発の手を緩めることは
できまい。政治的安定のためにも、所得格差の緩和は絶対に必要だろう。つまり中国
にとってエネルギー問題は内政問題でもある。
そうなると日本にとっての選択肢は限られてくる。中国との共同開発も視野にいれた
共同開発という道しか残されていないように思える。もしシベリアの天然ガスで中国
と争えば、ロシアに足下を見られるだけだ。今後、ロシアが豊富な石油や天然ガスを、
いっそう外交のテコにしてくることは自明の理。ロシアにそのカードを切らせまいと
思えば、日中で協力するしか方策はあるまい。
そのような状況のもとでは、小泉首相の靖国参拝問題は、「英霊」が礎となって築き
上げたこの日本の繁栄を危うくするものとしか思えない。不戦の誓いなどと言いなが
ら、目の前に迫っている具体的な問題があたかも存在しないかのような行動に見えて
しまう(だから「外交感覚はゼロ」と言われても仕方があるまい)。
それにしてもエネルギー問題について、日本で危機感が感じられないのはどうしたこ
とだろう。1973年の石油危機の前、アメリカの優秀な石油アナリストが危機を予測し
てデトロイトの自動車メーカーを行脚して回った。そして自動車メーカーは石油危機
の警告をまったく無視した。産油国による原油禁輸が世界を震撼させたのはそれから
数ヶ月後のことである。そして警告を無視したアメリカのビッグスリーはどうなった
か。世界に君臨していた栄光はもはやなく、GMは世界一の座をトヨタに奪われる危
機に直面している。そしてそれは日本という国の明日の姿かもしれないのである。
(Copyrights 2006 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)
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