ホリエモンとヘンリー・フォード

ライブドアへの強制捜査について、意見が分かれている。いろいろ悪い噂もあったの だから当然という人もいれば、出た杭を打つ「国策捜査」であり検察ファッショだと いう人もいる。意見が分かれるのは、現在の容疑(投資家に対して虚偽の情報を流し たことと、利益を水増ししたということ)が、これほどの大騒ぎに値するものかどう かについて見方が割れるからである。どちらの見方が正しいかは現時点では何とも言 えないが、世の中が寄ってたかってホリエモンをいじめているような様は、あんまり 美しくない。ついこの間までヒーロー扱いしていたのはどこの誰だったのか、メディ アをはじめ自省が必要だ。

最近、古い本を読み返した。ディビッド・ハルバースタムという著名なジャーナリス トが書いた『覇者の驕り』(NHK出版)という本である。内容は、アメリカの自動 車産業がいかに墓穴を掘って日本車にやられたかというものだが、その中に今回の事 件とも絡む面白い一節があったのでちょっと長いが引用してみる。

「こういう経済の仕組では、大きな企業合併を見越してだれが勝つかをうまく当てれ ば、やり手のさや取り業者ならあっという間に何百万ドルもの金を儲けることができ たが、物を生産することはしだいに価値がなくなっていくのだった。・・・何十億ド ルもの金が動き、株価が上がり、百万長者が生まれた。しかし、何が生産されたかと 言えば、1バレルの石油も生産されなかったのである。・・・今ではしこたま金を儲 ける人間は物を生産せず、物を生産する人間は大して儲からないというのが、一般的 なルールになってしまった」

これは1980年代のアメリカの話である。このころアメリカのウォール街ではMBA(経 営管理学修士号)を取得した連中が幅をきかし、学校を出てすぐに10万ドルの給料を 稼ぐと言われた(通常の新卒だとだいたい3万ドルぐらいの時だったと思う)。ヤッ ピーという言葉が流行るのはこの80年代の半ばであろう。そして87年10月の株価大暴 落を迎えたのである。

経済活動は何もモノやサービスといった価値を生産するものだけではない。株を売っ たり買ったりするのも経済活動だと思う。しかし誰かが価値を生み出さなければ、実 は売ったり買ったりもできないのではないだろうか。誤解を恐れずに言えば、価値を 生み出すことが経済活動の主であり、売買して利ざやを稼ぐのは従である。本来、事 業に投資するのが投資であって、利ざやを稼ぐのが投資ではない。ただ投資した証券 を流通させる市場があったほうがリスクマネーが増える(つまり零細な資金も集めや すい)。だから資本市場が発達してきたのであって、その市場を利用する利ざや商売 は一種の派生ビジネスだ。

この本の中で、フォードの面白いエピソードがある。創業者のヘンリー・フォードは、 大金持ちだったが自らを資本家階級と呼ばれるのを好まず、「生産者階級」と自称し ていたそうだ。

ある日、友人の子供がこう誇らしげに話したのをフォードが聞いた。
「ぼく銀行に預金してます」
フォードはその子にこう諭した。
「そのお金は怠けているんだよ。きみがしなくちゃいけないことは、そのお金で工具
を買うことだ。そして何かをつくってごらん。とにかく、何かを創造することだよ」

価値を生むということと、儲かるということは別物だという感じがする。高利貸しで 儲けた人が尊敬されないのも、そのへんに理由があるだろうか。

さて、フォードではなくホリエモンだったらその子供にどう諭しただろうか。

ある日、友人の子供がこう誇らしげに話したのをホリエモンが聞いた。
「ぼく銀行に預金してます」
ホリエモンはその子にこう諭した。
「そのお金は怠けているんだよ。きみがしなくちゃいけないことは、そのお金で会社 を買うことだ。そして株価を上げてごらん。そしたらまたどこかの会社を買うんだ」

こうして時価総額経営の永久運動が続くことになる・・・はずだったのだろうか。

(Copyrights 2006 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)

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