医療費を抑制して大丈夫?

総選挙の大勝で、郵政民営化のめどがたち、次は財政改革というか財政再建がテーマ になる。そこでの目玉は公務員人件費の削減と医療費の抑制だ。医療費については、 10月中旬に厚生労働省の試案が発表されることになっている。国民医療費はだいた い31兆円前後で、国民所得に占める割合で言うと、2002年度で8.5%。景気が低迷し ていたためもあるが、この8.5%という数字は過去最高である。2002年度の場合、医 療費31兆円のうち公費負担分が10兆円、あとは保険料が17兆円弱、患者負担が4 兆6000億円ほどだ。

10兆円もの公費負担(国と地方でだいたい8対2の割合で負担している)があり、さら に医療費がこれからもどんどん増える見通しとなれば、抑制したくなるのは当然かも しれない。とにかく社会保障にまで切り込んでいかなければ、国の財政が立ちゆかな い。そもそも年間国内総生産の140%を越える公的債務を抱えている国は先進国では 皆無である。世界経済フォーラムが発表した「世界競争力報告」では日本は12位と昨 年の9位から落ちた。調査対象117カ国・地域のうち政府債務では114位、「財政的節 度が欠如している」と指摘されているのだという。61万人余という公務員の総人件費 でも5兆4000億円ほどであるから、医療費は節約のターゲットとして目立つ。

しかし、医療費は本当に抑制しなくてはいけないのか。一般的には、医療には無駄が 多いと思われている。検査漬け、薬漬け、無駄な延命措置などなど。肉親が入院した りすると、そんなに検査が必要なのかと思うようなところもあるし、飲まされる薬の 量も半端ではない。本当に必要かどうかは患者にも家族にもほとんど判断がつかない。 そうは言っても、健康保険組合のほうでレセプトがチェックされ、明らかに無駄と思 われるものは支払いを拒否されることもある。それなりにチェックが働いているのな ら、無駄な医療行為はないわけではないだろうが、それを節約すれば医療費が大幅に 減るというものでもなさそうだ。

医療費が増えるのには構造的な理由がある。高齢化もその一つだが、いちばん大きい のは医療の高度化である。従来だったら手の施しようがなかった病気でも、手術をし たり、投薬したりして治療することが可能になっている。ガンのような病気でも薬を コントロールすることによって、今まで以上に長い間、生活の質を保つことが可能だ。 それに一人の患者に多くの医療関係者がチームとして関わることも少なくない。当然、 医療費は膨らんでいく。

命が関わっている以上、医療の高度化は必要である。治療の方法がない難病をなんと かしようという努力は日夜続いている。いつの日か、治療法が発見されるだろうし、 人間の組織から人体の「部品」を作り出すことができれば、さらにいろいろな病気が 克服されることになる。そしてこれが医療費の増大に直結するのである。

医療の高度化による医療費の増大に加えて、人口が高齢化してくれば、必然的に医療 費は増加する。そういう中で医療費を抑えるということは、誰にしわ寄せがいくのか というと、多くは患者である。保険で面倒を見てくれるのはここまでと線を引かれて しまうことになるのだろう。保険でも公費でも払ってくれない分は、患者の自己負担 になる。差額室料のように、差額治療費を負担できる患者とできない患者の格差が大 きくなるのだろうか。

支払い能力の差によって、受けられる治療の程度に差がつくことをわれわれは受け入 れられるのだろうか。どこまで治療を受けられるのかが命の長さを左右するとなった ら、それこそ金で命を買うような話になる(今でも臓器売買など金が物を言う世界は あるが)。それこそ国民皆保険制度が死ぬという話だ。昔、池田勇人首相が「貧乏人 は麦を食え」と発言して大騒ぎになった。「貧乏人は高度治療を受けるな」という発 言をしたら、内閣総辞職はまちがいない。しかし医療費の抑制ばかりが強調されると、 近いうちにそういうことになりかねないと思う。

(Copyrights 2005 Masayoshi Fujita 無断転訳載を禁じます)

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