NHKよ、どこに行く?

NHKの「新生プラン」なるものが発表された。従業員を1割削減するなどということ には僕はあまり興味がない。それは経営として判断すればいいことで、人を減らし てNHKがよくなるのかどうかは別問題である。たしかに余剰人員を抱えていれば経営 が圧迫されるのははっきりしている。しかしどこまでが余剰でどこからが余剰でない のかは明確ではない。それに何の余裕もない組織は、およそクリエイティブにはなれ ない。これも業界の常識である。しかも今のチャネル数や番組を前提にしているので あれば、そもそもNHKを変えると称する方向が違っているのではないかと思う。

今回の新生プランは3本の柱からなる。ひとつめは、視聴者第一主義で「NHKだからできる」放送を追求する。ふたつめに、組織や業務の改革・スリム化、みっつめに、受信料の公平負担を打ち出している。この中でいちばん問題なのは、「NHKだからできる」番組とは何かということである。その原点から考えなければ、3年間で1200人を削減するという政策が十分なのか不十分なのかの判断すらつかない。

問題は番組の中身。現在の総合放送のように、全国津々浦々で放送しているのはNHK だけという時代の遺物をそのままでいいのだろうか。NHKしか入らないという地方は どれだけ残っているのだろうか。日本全国のごく一部にそういう地域があるとしても、 それだけの視聴者のために、現在の総合放送を維持し続けることが理に適っていると 言えるのか。僕自身は都会に住んでいるので、NHKに対する考え方には偏りが あるだろうと思う。しかし独断で言わせてもらえば、NHKはニュース専門チャネルと して1局あればまず十分だと思う。

ニュース専門で世界に特派員を配置する取材網をもつのは。民放ではほとんど無理な 話である。しかし受信料で運営されるNHKならそれができるだろう。海老沢前会長も たしかニュース専門チャネルの構想をもっていたと思う。しかしそれは既存のチャネ ルにさらに付け加えるという話だった。そもそもそうした発想が「肥大化」する原因 なのである。かつてどんどん多角化を進めてきた日本企業は、バブルが弾けてコア・ ビジネスに回帰しはじめた。コア・ビジネスを成長させること、選択と集中こそが、 この苦境を乗り越える経営方針であると考えているからだ。NHKにはこの「選択と集 中」がない。なぜなら受信料という「売り上げ」は、基本的に営業努力なしに集まる ものだからである。つまり売る努力がないから、自分たちのビジネスのどこが弱いか、 などという発想はそもそもNHKの経営陣の中にない。

そういう組織であれば、組織は肥大化するのが普通である。地上波、衛星とメディア が変わってくるたびに、NHKは自分たちの図体にふさわしい分け前を要求してきた。 そして受信料を値上げしてきた。値上げを正当化するためと言ったらきっと言い過 ぎだろうとは思うが、サッカーや大リーグ、オリンピックなどの中継に莫大な金を使っ てきた。でもワールドカップをNHKがやらなくても、民放が放送するだろう。商売ベー スに乗るからである。オリンピックも同じだろう。多すぎるチャネルを穴埋めするた めに、民放でもできる仕事をNHKが高い放映権料を支払って獲得するのでは、何のた めの公共放送かわからない。

そういう時代は終わったのである。小泉首相ではないが、民間にできることは民間に やらせればいい。NHKは民間では出来ない番組をやればいい。民間ではできない、あ るいは民間ではやりにくい番組の筆頭は、報道である。実際、最近のニュース番組を 見てみるがいい。民間らしく歪められたニュース報道番組がなんと増えていることか。

民放だとそういうニュース番組になりがちなのは理由がある。視聴率を取るために、 いい報道をするよりも、視聴者に媚びようとするからである。かつてのニュースステー ションの久米さんが終わり頃にはかなりそういった側面が強くなっていた。たとえば アメリカの学校で銃撃事件があったときに久米さんは「2億丁もの銃がある暴力的な 国の言うことを日本は聞いていいのか」というような発言をした。視聴者にはわかり やすい話だが、ニュースを伝える人間としての真摯さがそこにはない。それでも番組 にしてしまうのは、視聴率が取れるからである。

だからこそNHKは、1200人を削減するとか言うよりも、これからどういう番組づくり をめざすのか、娯楽系は必要なのか、チャネルはあんなにいるのか、そのあたりをしっ かり打ち出すべきである。もしそのあたりがはっきりしてくれば、不祥事以来の不払 い者だけでなく、これまで確信犯的に契約をしてこなかった960万世帯の人々も考え 直そうという気になるかもしれない。

この記事は私の週刊メルマガ"Observer"に掲載したものです。

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