9・11総選挙、嗚呼勘違い

小泉自民党の勝利は十分に予想できた、というより民主党が敗北することは十分に予 想できたが、これほど大きな地滑りが起こるとは思わなかった。私の周辺でも、普段 は民主党に入れる人が「比例は自民党に入れた」とか「選挙区だけ自民党に入れた」 という人が目立った。普段は選挙に行かないのに、今回は行ったという人もいた。そ れだけ小泉首相に期待した人がいた。それは何かが変わるかもしれないという雰囲気 があったからである。

多くの有権者は、今の日本に満足していない。社会構造、年金、医療、環境、財政赤 字、食料と不安や不満のタネはいくらでもある。だから多くの人がどこの政党でもい いから、何とか変えてほしいと思っている。でも自民党に変えてもらうのは無理だと ほとんどの人が思っていた。なぜなら半世紀以上にわたって日本を支配してきた政党 が、自らつくってきた社会を批判して変えることなどするはずもないからだ。それは 天にツバするような話である。そこに登場したのが小泉さんである。派閥力学とは無 縁の選ばれ方をしたから、失うものは何もないし、うるさいしがらみもない。そして いきなり「自民党をぶっ壊す」と叫んで登場したから、閉塞感にさいなまれていた国 民は拍手喝采し、熱狂的に支持したのである。

それが今回、郵政民営化への賛否を問われて再び小泉政権に圧倒的な支持を与えた。 しかし有権者を突き動かしたのは、郵政民営化そのものではない。「内なる敵」をあ ぶり出してまで郵政を民営化すると決意する小泉首相だったら、きっとその他の既得 権益に切り込んで日本を変えてくれるだろうという期待感が有権者を動かしたのであ る。民主党が読み誤ったのはまさにここだ。民主党は、郵政民営化だけが問題ではな いのだと主張したが、対案を出さなかったために、既得権益をぶっ壊せないと見なさ れた。実際に総選挙で大敗後も、民主党自身の「内なる敵」はそのままだ。17日に行 われる代表選挙の後で、文字通り「解党的出直し」をするべきだと思う。

本来、長期にわたって政権の座にあった政党は改革派にはなれない。自分たちがやっ てきた政策が誤りであったことを認めるわけにはいかないからである。「いいものは 受け入れる」とよく言うけれども、それは従来の政策とバッティングしない限り、と いう条件がつく。保守政党とはそういうものである。したがって保守政党は、微妙な 軌道修正を繰り返すのが常だ。それに対して、野党は現状を打破するのが目標である。 だから改革姿勢はよりドラスチックなものになる。というよりもよりドラスチックに ならなければ、存在価値そのものが問われてしまうのである。保守派よりも保守的で は、それこそ有権者にとって選択肢にならない。

しかしいわゆるリベラルな政党にとって苦しいのは、内政的な問題でリベラルな政策 をなかなか打ち出しにくいことである。たとえば、社会保障を手厚くするというのは 最もリベラルらしい政策であるけれども、そんな政策を実行しようとすれば財政問題 にすぐ突き当たってしまう。かといって共産党のように法人税引き上げを打ち出せば、 悪くすると企業が海外に拠点を移してしまいかねない。所得税増税は有権者から反発 を食って次の選挙では必ず敗れる。つまりリベラルがリベラルらしくあることが非常 にむずかしくなっている。アメリカの民主党は昨年、大統領選だけでなく議会選挙で も共和党に敗れたが、敗因の一つはリベラルらしさを打ち出せなかったからだ。

つまり日本の民主党は二つの大きな壁に直面していることになる。一つは、保守には あるまじき変人宰相が政権の座についていること(ただしこれはおそらく後1年で状 況は変わる)。もう一つは、自民党と差別化できて、なおかつ財政的に無理のないリ ベラルな政策を有権者に提示するのがむずかしいということ。後者のほうがはるかに 構造的で解決がむずかしい問題である。それでも民主党が「小泉改革」の先を行く改 革派にならなければ、政権を奪うチャンスはない。そのためには、誰が内なる敵なの かを見極める必要があるのだろう。選挙で大敗したうえでさらに党を割るという選択 は取りづらいところだろうが、挙党一致などというお題目に振り回されると、民主党 は長期にわたって停滞する可能性が大きい。

この記事は私の週刊メルマガ"Observer"に掲載したものです。

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コメント

藤田様


いつもメールマガジンをありがとうございます。
また、物事の見方は多様であることが健全だと私も思います、私もできるだけ違う見方を提供していきたいと思います。


さて、昨今の財政難はご存知の通りです、与党にとって増税は避けて通れない課題だと思います。
そこでどこから増税するかが問題となりますが、バブル終盤から以後にかけて与党の行ってきた方針は、法人税減税・消費税増税でした。
これは会社の底力を増大させれば、給料も増えるハズ・下請けの支払額も増えるハズ・設備投資も活発化するハズというものでした。


結果は、企業の内部留保が14兆円増え、家計の消費が18兆円減りました。
なぜか、上のハズを3つとも行わなかったためです。法人税が安くなったため、税引き前当期利益を多くしても問題ないとなったと考えます。
これら内部留保を蓄えれた黒字企業の倒産リスクは減ったというプラスの側面はあります。
しかし、デフレという事もありますが、これだけ家計の消費を大幅に落としてまで行うべきなのでしょうか?


法人税は税引き前当期利益、つまり諸経費を引いた後の黒字部分にかけられます。現在、(まぁ中には休眠会社もあるでしょうが)日本の企業の7割が赤字で税金を払っていない状況で、法人税を値下げしても、上のハズは達成されないのがわかります。
また、赤字企業には還付金が出ますが、これは法人税と比例するため、赤字企業が倒産・自殺率も増加しました。


さて、法人税増税をプラス思考のハズで語ってみましょう。給料も増えるハズ・下請けの支払額も増えるハズ・設備投資も活発化するハズ。
まったく一緒のハズを並べましたが、これは法人税増税のため税引き前当期利益を減らすため、給与や経費で使い切る方がいいと思わせる高度経済成長期の方法です。今のデフレで行き詰った経済を打破するためにいかがでしょうか?


P.S. 日本共産党は過去諸外国が行ってきた独裁共産制ではなく、民主共産制を目指しています。
また、ソ連や中国の共産制がなぜ失敗したか、マルクスの本を読んでいただければ一目瞭然です、彼達には経済的な基盤がなかったため、少ない資本を大勢の民衆で分け合うことになったためです。


国会内に複数の視点を持たせるためにもなるのではと、毎回一票を投じております。

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