小泉流ショータイム

周囲が「まさか」と言っている間に、小泉さんは「公約通り」衆議院を解散してしまっ た。参議院自民党で多数の造反者が出たために、郵政民営化関連法案が否決されたか らである。何もなければ2007年秋まであるはずだった衆議院議員の任期。前回から2 年以内の総選挙は政党にとっても議員にとっても負担が大きい。だから、参議院での 審議と併行して、自民党執行部は「解散」をちらつかせて反対派の抑え込みにかかっ ていた。「自民党が割れるような事態は何としても避けなければいけない」というの が口説き文句である。

しかし考えてみるがいい。小泉さんが「郵政民営化、自民党をぶっ壊す」といって登 場したのが2001年、4年前のことだ。つまり首相はこの「公約」をようやく実行しよ うとしているのである。もちろん自民党をぶっ壊すことが小泉さんの目的であったは ずはないが、古い体質の自民党は壊すと何度も表明している。そして郵政民営化は年 来の主張だ。自民党は、郵政民営化こそ政治生命を賭けてもやるべき大仕事と思いこ んでいる人物を総裁にすえて政権を維持してきたのだから、本来、ここで自民党の造 反者が出て否決するなど有権者から見ればわかりにくい話である。

とりあえず小泉さんをいただいて選挙で勝ち、その後で自分たちの意見を通せばいい。 これが党内反対派の考え方だったはずだ。かつての自民党だったらそれでよかっただ ろう。首相は派閥の力学の上で選ばれ、均衡が破れればいつでも椅子から滑り落ちる 存在だった。それをたった一晩で変えたのが小泉さんだった。今までの自民党の鵺 (ぬえ)的な性格に「終止符を打つ」と宣言したのだから、強力なリーダーシップに 飢えていた国民にとっては、まさに救世主である。それがあの80%とか90%という支 持率だった。

その支持率の重みを自民党のアンシャンレジーム(旧体制)は理解していなかった。 総裁選挙で小泉さんを支持した自民党員もすべての人々が「改革派」であるはずもな い。ただ選挙のときに首相といっしょに撮影してもらえれば票になると思っていただ けかもしれない。たとえ総裁がどれほどリーダーシップを発揮しようとしても、党と いう重しがある限り、小泉改革に歯止めをかけることができると考えていたのだろう。 総裁が同士である自分たちに解散という刃を突きつけることなど想像もできなかった に違いない。

90年代の自民党では、総理総裁に対する国民の支持率は低く、だから党内で調整型の 総裁を選ぶという形が普通だっただろうと思う。その結果、国民の支持はますますな くなり、ひどいときには支持率は一桁だった。それでも首相が務まったのである(厳 密な意味で務まったかどうかは別なのだが)。この時代は、首相は国民からある意味 で非常に遠い存在だった。永田町という特殊な社会の論理だけでしか生きられない存 在だったのである。

そういった首相たちと違って、小泉首相は永田町の論理の隙間から生まれた。しかも その産声が歴代の首相とあまりにも違っていたために、国民の支持率という栄養を与 えられてぐんぐん育った(だいたい小泉政権がここまでもつと思っていた自民党関係 者はほとんどいなかっただろう)。そして党が従来の意味でコントロールできる大き さを超えてしまったのである。

首相はこれまで「自民党をぶっ壊す」という言葉の意味を聞かれてこう語ってきた。 古い自民党を壊す、自分の改革についてきてくれる自民党は古い自民党ではない、と いうような意味のことを語ってきた。これまでは守旧派と目される人々をねらい撃ち にしたことはなかったが、この郵政改革法案が踏み絵になって反対派のあぶり出しに つながった。言ってみれば、小泉首相にとっていよいよ「最後のショータイム」なの である。

自民党の分裂選挙を受けて、野党第一党である民主党には「千載一遇のチャンス」と いう気分が広がっている。岡田代表はもし政権を奪取できなければ辞任するとまで言 い切ったそうだ。しかしここには三つの問題がある。一つは、民主党に政権を取らせ たいと思っている人が、自民党支持者と拮抗しているわけではないということ。第二 に、焦点の郵政改革について民主党の影はまったく薄かったこと(だから小泉首相に 「抵抗勢力」としてくくられてしまう)。第三に、民主党自体が寄り合い所帯である ために、国民に明確なビジョンを提示することができていないこと。

この三つの問題が解決しない限り、民主党が安定した政権党になれるチャンスはない。 岡田さんが小泉首相のように「突出」して、党を置き去りにするような芸当ができれ ば話は変わるかもしれないが、それができるために相当の「変人」にならなければな るまい。生真面目な岡田さんにそれを期待するのはちょっと無理というものだ。

この記事は私の週刊メルマガ"Observer"に掲載したものです。

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