変わる株主、変わらぬ会社
毎年この時期には日本の企業社会の「特異日」がある。今年は6月29日だった。3月決算会社の株主総会が集中する日、この日だけで1600社の株主総会が行われたというから、多数の会社の株主である機関投資家などはその事務処理あるいは出席者の確保だけでも大変だと思う。個人株主だと、数社から送られてくる委任状を返送するだけかもしれないが、機関投資家(とりわけアメリカ系)はそうはいかない。議案を検討して株主に有利か不利かを判断し、その上で議決権をきちんと行使するのがファンドを運営する人々の義務であると心得ているからだ。
日本の企業は実はこうした株主にあまり慣れていない。だから株主が十分に検討する
時間をもてるように、なるべく早く招集通知を発送するとか、他社と日程が重複しな
いようになるべく早く株主総会を開くとかいう発想のない会社のほうが多い。だから、
いまだに総会開催日が集中する。
日本の企業社会は系列か取引先との株式持ち合いが基本である。少々乱暴な言い方に
なるが、産業界はいわばムラ社会であり、なれ合いの世界だったのである。多少の問
題はあっても、持ち合い分の株式で株主総会は乗り切れる。わずかの株式を保有して
総会に乗り込んでくるのは「総会屋」と相場が決まっているから、数で押し切るか、
カネで懐柔するかのどちらかでいい。しかも総会屋との戦いは道義的にいっても完全
に会社側に分がある。
ところが一般株主や機関投資家は総会屋とは違う。そう簡単に無視はできない。それ
でも、これらの株主が一部とはいえ会社のオーナーであるという意識は経営陣にはほ
とんどないだろう。なぜなら通常、これらの株主が過半数を握ることはないからであ
る。もしある機関投資家が過半数の株を握ってオーナーになれば、経営陣の態度は一
変するに違いない。旧経営陣の人たちは、潔く会社を辞めるか、新しいオーナーの言
うことを聞くか、どちらかしか選択肢はないのだから、当然である。
しかし過半数の株式を自分たち経営陣がコントロールできている限りは、それほど機
関投資家や一般株主の意向を恐れることはないと考えるのだろうと思う。フジテレビ
の株主総会は、ライブドアとの攻防戦をめぐってかなり荒れたようだが、日枝会長は
質問者が手を挙げているのに総会の閉会を宣言したという。これなど、経営陣の意識
がどこにあるかを表す典型例なのかもしれない。
企業は株主のものであるというのはまったく正しいが、本来もうちょっと厳密に言う
べきなのだろうと思う。すなわち、企業は大株主のものである。これが実際のところ
経営陣の意識だ。日本のサラリーマンが経営者へと「成長」していく過程で、子会社
の役員を務めることが多い。多くの場合、子会社は親会社が圧倒的に支配しているか
ら、子会社の株主総会はまさにシャンシャン総会のひな形のようなものである。議案
もすでに結論がでており、形ばかりの総会であって、そこで実質的な議論などされる
ことはない。
そういった世界で育ってくれば、当然のことながら「予定調和」という感覚が染みつ
くはずだ。総会で一般株主に延々と会社の状況を説明するということなどやりたいは
ずもない。予想もしなかったような質問が出れば、立ち往生するに決まっている。企
業経営者にとって、株主総会での立ち往生など悪夢であろう。
しかし、そういうやり方が通用したのは、日本のムラ社会に外国人がいないときだ。日本というムラは、図体が大きくなったものだから、そこに外国人が来るようになっ
た。外国人は「郷に入れば郷に従う」のではなく、自分たちのルールでものを考える。
それは当然だ。おカネに色はついていないのだから、ルールが違うと思ったらよそに
おカネを持っていくだけである。外国人持ち株比率が高い会社ほど、経営陣の議案が
否決されることが増えてきたのは、ムラ社会が破られているということである。
外国人が来るのがどうしても嫌だったら、自分がさっさとムラを出て、山の中で隠遁
生活を送ればいい。つまり、会社を非公開会社にして、機関投資家やら一般株主に引っ
かき回されない会社にすればいい。非公開会社なら村上ファンドも関係ない。どのよ
うな経営をしようと、何人かの株主だけが合意すれば何の問題もない。日本の企業は
いま毒薬条項やら何やら、買収防衛策を強化しようとしている。しかし最高の防衛策
は上場廃止である。妙な防衛策を導入して株主の利益を損ねるぐらいだったら、いっ
そのこと株をすべて買い取って上場廃止にすればいい。そうなったら、説明責任もか
なり軽くなるのではないだろうか。日枝さん、一考する価値はありませんか?
この記事は私の週刊メルマガ"Observer"に掲載したものです。
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コメント
全く同感です。
- 2005/07/01 20:18:11
- 投稿者: 川嶋 均
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