誰のための企業防衛?

3月決算会社の株主総会シーズン。今年の最大の話題は、企業買収に備えるための定 款変更である。今まで日本の企業は企業買収の恐怖にさらされたことはあまりない。 アメリカで乗っ取り屋(コーポレートレイダー)が一大流行していた時代でも、日本 ではT・ブーン・ピケンズが小糸製作所の株を買い占めて話題になった程度である。 しかもその当時は、株を買い占めて高値で買い取らせるというケースがほとんどだか ら、いわば「カネで片が付く」時代だったのである。ところが時代は変わってきた。 ライブドアという企業社会のエスタブリッシュメントにはほとんど馴染みのない会社 が、フジサンケイグループというメディアの大企業に買収を仕掛けた。そしてフジ側 はいちおう防戦に成功したが、400億円という出資金を「人質」に取られた形になっ た。どのような会社でも安泰ではないということになって、いま企業経営者は防衛の ための手段を定款で定めようとしているわけだ。

世は大買収時代なのだそうだ。一橋大学大学院の佐山展助教授に話を聞いたことがあ る。佐山氏はこう語った。「これまで日本の企業は『売る』ことに抵抗感があったが、 バブルの崩壊でそうも言っておられなくなった。だから日本のM&Aはどんどん増えて いるし、これからも増える」。バブルを耐え抜いてきた企業は、これからさらに企業 の体質強化をしなければならない。そうしないと国際競争に負けてしまうからである。

その第一歩は言うまでもなくコアビジネスの強化だ。このコラムでも書いたが、鋼鉄 製橋梁の談合事件は、小さな市場をたくさんの会社で分け合う相互扶助システムであ る。つまりはお互いの非効率を支え合い隠すためのもの、しょせん滅び行くシステム なのだ。なぜなら談合を裏で支えてきた国や自治体も、税金の使い道についてもっと 神経を使わないと自分たちの退職金が吹っ飛んでしまうかもしれないからである。そ のような状況の中で、M&Aは「効率化を実現するための効率的な手段」ということが できる。パイ全体がなかなか大きくならないときには、競合している会社を買収する のが手っ取り早い。競争相手のその部門がもし彼らにとってコアビジネスでなければ、 友好的に売ってもらえる可能性も大きいのである。

だから、企業があまりに買収対抗策を講じることは、日本経済にとってはマイナスだ。 全体的な効率化が遅れるからである(効率化はそんなにすばらしいことかどうか、と いう議論はここでは置いておく)。もちろん買収側よりも現経営陣のほうが効率的で 利益を上げる経営ができるというのなら話は別だ。ただそれをどうやって証明するの かというと、結局は利益を出して配当を増やすということになるのだから、それこそ 目先の利益にとらわれた話になりかねない。フジテレビが配当を極端に増やしたのが その典型である。まして明らかに現経営陣の保身のためということになれば、本末転 倒という他あるまい。

しかし買収提案が優れているかどうかを判断するのは結局のところ株主だ。そして株 主とは誰のことかというと、年金基金やら生保会社などの機関投資家。機関投資家は 純粋に自分たち株主のためにいちばんいいことは何かという観点から行動するとは限 らない(とくに日本の機関投資家は合理的な判断をすることもあるだろうが、過去の しがらみもあるだろうし、恩を売りたいという打算も働くだろう)。つまり一部の大 株主が方向性を決めてしまうのだが、彼らが一般株主の利害を代表しているわけでは ないということである。

経済的民主主義とはそういうものだと割り切ってしまえばいいのかもしれない。お金 のある投資家がたくさんの株(つまりは議決権)を持っているのだから、彼らの意向 が重視されるのは当然なのだろう。でもそういう大株主だけで物事が円滑に進むかと いえばそうでもない。なぜなら大株主が予定した利回りを確保するためにはどこかで 株を手放さざるをえないが、その株を引き受けてくれるのは一般株主だからだ。一般 株主が気軽に参加できる株式市場という意味がそこにある。機関投資家にせよ、村上 ファンドのような挑戦的投資家にせよ、このような個人投資家の存在をないがしろに するような行動を取れば、やがてしっぺ返しを食うだろう。もしそうでなければ株式 市場そのものが信認を失っていくことになるかもしれない。

企業買収防衛策を真剣に検討している事業会社も同じことだ。一般株主の利益に反す る防衛策は、思わぬところで株主からの反撃を食うことになるはずだ。実際、日本の 株主は物言わぬ株主から脱皮しはじめている。株主代表訴訟という手段で追及される 経営者はこれからも増え続けるはずである。

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