未だに残る20世紀の残滓

鋼鉄製橋梁をめぐる大型談合事件が摘発された。東京高等検察庁は受注を取り仕切っ た10人ほどを立件する方向で捜査を詰めているという。ある業界関係者は、「不当な 利益をあげているわけではなく、生き残るために仕方がなかった」というコメントを 残している。

年間3500億円をめぐる大規模な談合というが、その市場を47社で分け合っているとい ことは1社当たりにするとそれほどの金額ではない。むしろそんなマーケットにそん なにたくさんの企業がひしめいていることが不思議だ。しかも鋼鉄製橋梁などといえ ば、公共事業以外の受注などはごくわずかだろうし、そうなると結局は、少ない仕事 をあまり競争せずに(言葉を換えれば、あまり採算を落とさずに)受注することに神 経を使うようになったのだろう。

一方、支払い側はどうなのだろうか。国土交通省は制度を変えても悪いことをしよう という人間はいるから、摘発があったからといってすぐにまた制度を変えるというこ とにはならないと何だか他人事のような言い方をしている。もともと公共工事に談合 はつきものだった。競争入札という面倒な手法よりも、談合で受注者が決まるほうが、 発注者側にとっても便利だったからである。

いちばん困るのは競争入札によって実績のない新顔が登場することである。いろいろ な暗黙のルールを破られては何かと差し支える。だから入札できる業者を指名すると か、日本で実績のない業者は締め出すとか、発注側、受注側双方があの手この手で既 得権益を守ろうとしてきたのである。そしてもちろん受注調整を発注者側のOBが取り 仕切ってきたこともある(たいがいの場合、予定落札価格を聞き出してくるのがOBの 役割だとされている。そういう人たちがいるからこそ、談合によって平均の落札率 が95%前後と非常に予定価格と近いところで落札できる)。

しかしこのような仕組みは「前世紀の遺物」である。公共事業という名の税金のばら まきができる時代の仕組みだ。そんな時代はとっくの昔に過去のものになっている。 考えてみるがいい。日本の公的債務はGDPの1.8倍ぐらいになるというから、家計にた とえていえば破産である。収入の数倍の金を使い、その資金とかつての借金の利息を 支払うためにまたお金を借りている(国債を発行する)状態だ。もちろん家計と国と では「信用状況」が違うから、安易な比較は誤解を招くのも事実だが、先進国中最悪 であり、この状態をいつまでも続けることはできないという認識もほぼ共通している。 つまり何とか財政支出を減らしていかなければ、早晩、日本の財政は行き詰まり、そ れが日本経済に大きなダメージを与えるかもしれない。

つまり官民のもたれ合い構造を維持するのはもう困難ということである。そうなった ら、民間企業は競争力を強化してさらに安い価格で受注できるようにするか、圧倒的 なシェアを握って価格を支配できるような力を手に入れるかしなければ生き残ること はできまい。おそらく3500億円程度のマーケットだったらせいぜい数社が残る程度と 言ったら言いすぎだろうか。

小さいマーケットにたくさんの企業があるという意味では、たとえば製薬業界も同じ だ。製薬産業の年間売り上げは約6兆円。そこに200社ほどの企業がひしめいている。 それを可能にしているのは、薬価制度である。つまり健康保険組合が払う薬の値段が それぞれ決められている。そしてこの薬の価格は開発に巨額の資金が投じられている ために比較的利益が大きくなるように設定される。もちろん時間がたつとその薬価に 見直しが入るが、それまでは製薬会社の利益は大きい。こうして数多くの製薬会社が 生き残ってきた。

いまようやく海外企業との提携やら、日本の大手同士の合併などが生まれている。た とえば山之内製薬と藤沢薬品のようなケースだ。要するに一定の規模を確保しなけれ ば、これからの国際競争を生き抜いていくことがむずかしいという認識が業界に共有 されてきたからである。

橋梁の業界もその意味では古い業界。それに薬と同じように新規参入がなかなかしに くい業界でもある。しかしだからといって前世紀の遺物のようなやり方にしがみつい ているのは大きな間違いだ。当然、企業あるいは産業の再編・効率化が目の前の課題 になってくる。普通、こういうときこそ新しいビジネスチャンスがあると考える経営 者が出てくるもの。それができる経営者なのかできない経営者なのかによって、従業 員の幸福の度合いも決まってしまう。橋梁業界で働く人にとってしばらくは我慢と試 練の季節となるだろう

この記事は私の週刊メルマガ"Observer"に掲載したものです。

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