民主党解体のすすめ
4月24日、衆議院の補欠選挙があった。福岡2区と宮城2区である。どちらも前回の 衆院選で民主党が奪った議席だった。それが学歴詐称やら選挙違反で議員辞職に追い 込まれてしまった。その意味では民主党の苦戦は当然予想されたことではあったが、 それでもこうもあっさりと負けてしまうと、政権を奪取すると意気込んだあの勢いは どこへいってしまったのかと思う。
民主党の岡田代表は「投票率が低かった」と嘆いたそうだが、投票率が低かったの
は民主党がだらしなかったからだという思いはないのだろうか。民主党のどこがだら
しないのか、それははっきりしている。野党としての迫力がまったくないのだ。自民
党旧橋本派のヤミ献金疑惑では、村岡兼造元官房長官を民主党の集会に呼んでからと
いうもの、すっかり忘れてしまったかのように見える。追及する気力が失せたのはな
ぜなのだろう。民主党の知られざるスキャンダルを自民党につかまれたのだろうか。
いちばん野党らしくないのは、郵政民営化問題だ。全逓の支援を受けている議員も
少なくないのだから、民営化議論が本格化してきたら民主党は腰砕けになるのではな
いかとこのコラムでも書いてきた。そこで民主党が採用した戦術は、あまり議論に深
入りせず、必要なときには「そもそも論」でお茶を濁すことであった。「そもそも郵
政民営化は必要なのか」という議論である。これでは自民党の抵抗勢力と差別化する
のはむずかしい。何のことはない。本来、革新的な野党でなければならない民主党が、
自ら「守旧派」になってしまったのである。小泉首相は喜んだだろう。自民党が内部
対立でごたごたしているときに、民主党が勢いをつけてきたら、いちばん困るのは首
相だ。自民党総裁として責任を問われかねない。ところが敵が勝手に転んでくれた。
勢いというのは政治では重要な要素だ。どうやって勢いをつけるかが最も大きな課
題。小泉首相の勢いは、田中真紀子さんの応援と「郵政民営化、自民党をぶっ壊す」
という一言であった。それが支持率80%の源である。就任して4年になるというのに
今でも支持率は40%程度を保っている。
それに比べると民主党はせっかくつきかけた勢いが、もはやどこにも残っていない。
学歴詐称とか選挙違反とか、菅代表の年金未払いとか、勢いを削ぐものはいろいろあ
るが、岡田代表になってのいちばんの問題は、政権がちらつきだしてから、野党とし
ての迫力を失ったところにある。「何でも反対」ではない現実政党と宣言したとたん
に、現実に押しつぶされてしまったかのようですらある。自分たちの支持基盤の既得
権益を守らざるをえない、少なくともそれを奪うことはできないというのが、押しつ
ぶされた証拠である。
民主党が小泉政権を打倒し、自分たちの政権をつくるつもりだったら、郵政改革は
常にリードしていなければならなかった。国民は民主党の支持基盤の一つは労組であ
り、その労組は郵政民営化に関しては抵抗勢力であることを承知している。だから国
民にとっては、郵政民営化は民主党を試すリトマス試験紙のようなものだった。その
ことを果たして岡田代表は承知していただろうか。
こうした情勢の中では、民主党の取るべき立場はただ一つ。それは小泉改革の上前
をはねて、わが党こそ改革の主導者なりと主張することである。より徹底した民営化
を主張し、国民によりよいサービスを提供するにはどうしたらよいか、200兆円を越
える巨額の郵貯・簡保の資金をより有効に使うにはどうしたらよいか。よりドラスチッ
クな案を提案しなければ、国民のテストに合格することはできなかったはずである。
このテストに落ちた以上は、もはや民主党の選択肢は多くない。いちばん痛みがあ
るが、将来に希望が持てるのは「解体」である。寄せ集めの数合わせを止めて理念か
らの立て直しだ。ただ痛みが大きいから、この道を選ぶ可能性は限りなくゼロに近い。
しかし今のままお茶を濁すと、それこそ年金改革でも主導権を握ることができずに、
国民の支持を失うばかりになりかねない。福岡2区と宮城2区での敗北は民主党にとっ
て結党以来の危機なのである。
この記事は私の週刊メルマガ"Observer"に掲載したものです。
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